しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片を毎日1000字くらいで書く。

木を見ることについて

木が風に吹かれているのを不思議な気分で見ることがある。とくに、窓の向こう、ガラスを通して見るとき。 木の枝葉が揺れているので、風が吹いているのだとわかる。けれどその光景はガラスの向こうの視覚に過ぎず、吹いているはずの風はじぶんの肌には触れて…

怒りについて

先日、大学の売店に行ったとき、見知らぬひとが店内で携帯電話を耳に当てていた。わたしがそばを通り過ぎたとき、そのひとは突然電話の相手にむけて怒りを露わにした。 「それは授業の問題でしょう! わたしは被害者なんですよ!」 と、そのひとは言った。そ…

400年生きる深海ザメ

ある種のサメは深海で400年生きる、というニュース記事を読んで衝撃をうけている。全ての個体がそのように長生きなのではなく、捕獲されたある幸運な個体が400歳だった、ということなのだろう。 400年前、日本では徳川家康が江戸に幕府を開き、ヨーロッパで…

「嫌なのです」を聞くということ

嫌なのですと言っている人がいるなら、なぜ嫌なのか、とりあえずじっくり話を聞いてみるのも良いのではないか。聞いて、聞いて、聞き尽くして、相手の思考のさまざまな層をめくっているうち、いつのまにか自分自身の思考の層が開示されてしまい、自分の心理…

死ぬことを考える。

わたしが死ぬとき、それは今のことではなくて、わずかに未来のことである。その未来とは、もしかしたらこのエントリの「公開する」ボタンを押す直前かもしれないし、あるいは数秒後のことかもしれないけれど、とにかく「今」ではない。 未来は、じぶんの体か…

名刺交換直後のプチ雑談ができない

ここ1~2年、うっすらと気づき始めたのだけれど、どうやら初対面のひとと名刺を交換したあと、いただいた名刺の内容を見て、なにか一言ふたこと感想を言い合わなければならない、そういう風習というかマナーというのか、とにかくそういうことになっている…

稲田防衛大臣が「誤解だ」しか言えなかった理由

稲田防衛大臣が都議選の応援演説で失言し、その謝罪/釈明会見で「誤解」という釈明に終始した(この表現を30回以上使っていた)というニュースがあった。 何か失言をして、「誤解です」というのは釈明としてかなり筋が悪い。大臣としては、ここで間違って…

これが最後の朝だったら

朝、目が覚めたあとすぐ、もし仮にこの朝がじぶんの人生のさいごの朝であったならどうだろうと考えることがある。 布団から出ないまま、壁を見つめる。曇り空を透過してきた光を壁紙が受け取って陰影を強めてゆくのをみる。いろいろな匂いがする。車のエンジ…

囚人の首を絞める医学者

21世紀に入って、英国の精神医学界はこの領域における20世紀の誤りを今世紀に繰り返さないために、精神医学者のワースト・テンを選んだ(2001年3月の新聞報道)。その1位は、脳の血流が止まった場合の精神状態を調べるために刑務所の囚人の首を絞めた学者、…

なんであれ時代の変化を感じたがる

2週間前、ロンドン橋の根元のバラ・マーケットで無差別テロがあって、7人の民間人が殺されて3人の犯人が警察に射殺された、というニュースを見て、なんとなく聞いたことのある地名だなと思い起こしてみると、4年前に研修でロンドンに行ったときわたしは旅程…

性暴力と政治:「同情できない」の心理について

はっきりと同定できる敵による残虐行為、あるいは自分自身の行為としての残虐行為について、男性が遅延性の記憶を呈している限りにおいては、何ら論争は起こらない。しかし、同じような記憶の問題が、家庭内での虐待というコンテクストで女性や女の子が遅延…

「超音波法案」についてのケンタッキー州知事のコメント

米ケンタッキー州で「中絶手術を受ける前に胎児の超音波画像と心音を妊婦に聞かせることを義務付ける法案」が今年1月に成立した。現在、反対する団体が裁判所に仮差し止めを申し立て、それが認められている。 この法案について、ケンタッキー州知事のMatt Be…

ガラスのからだを持つひとびと

「誇大妄想をもち、たとえば自分が王様であると信じている人は今日でも見られる。自分の体がガラス製であると思い込んでいる人はもはや見られない。しかし初期近代には、〔ガラスや陶器で自分の体ができていると思っている〕ガラス人間や陶器人間は比較的一…

成年男性における〈うんこ教育〉の必要性

以前、学校で臆せずうんこに行くことを小学生男児に教えることの重要性を述べた。 【提言】小学校低学年における〈うんこ教育〉の必要性 - しずかなアンテナ きのう、このようなニュースがあった。 mainichi.jp すばらしい調査だ。みんなうんこ漏らしていた…

pixiv事件とフィールド系研究者の「やらかし」について

立命館大の「pixiv論文」事件、議論がわぁっと盛り上がっていて、すこし驚く。よくある話やな、という感覚で自分は見ていた。 この手の失敗・失態を、じぶんの周囲の業界?では、「やらかす」と表現する(日本全国で通じる表現なのか、関西弁なのかわからな…

インテリ誌の巻頭対談はなんであんなに喋れるのか

『現代思想』とか『理想』みたいな、トップレベルの研究者が競って投稿したり、寄稿依頼が来るとすごく嬉しくなるような文系カッコイイ系雑誌があって、そういう雑誌ではたいてい特集に関連した対談録が、雑誌巻頭(あるいは2つめくらい)に掲載されている…

アメリカ退役軍人省の「PTSD脳組織バンク」プロジェクト

なんとなくググっていたら、えげつないプロジェクトのサイトを見つけたので紹介する。 www.research.va.gov 大雑把にまとめると、PTSDを抱える退役軍人から脳組織を死後検体してもらい、将来の研究のために収集保管するプロジェクト。 以下、抄訳。 「退役軍…

子羊の掴まえ方(河合隼雄編『心理療法対話』より)

「 長谷川 西洋との違いということでは、私自身、面白い経験があります。以前、ヒツジの研究をスコットランドの沖合の無人島でやっていたのですが、そこでは、子ヒツジの成長を見るために一週間おきに捕まえて体重を測るんです。その捕まえるのがなかなか難…

研究室リソースの使い方

倫理学専修or臨床哲学研究室の学部生・院生のみなさまへ(とくに卒論・修論を書かなくちゃいけない方たちへ)。 この文章では、研究に必要なさまざまな「資源」の使い方を説明します。資源とは、書籍やプリンタやカメラなどの備品、図書館の論文取り寄せシス…

stomachacheは「胃痛」ではない(?)

以下は、最近3ヶ月在米していたパートナーから教えてもらった話。外国語学部出身で、英語のよくできる人である。 あるとき胃の不快感に悩まされ、薬局で「stomacacheに効く薬をくれ」と頼んだ。欲しかったのは日本でいう「胃薬」である。しかし出されるのは…

【提言】小学校低学年における〈うんこ教育〉の必要性

なぜ、小学生は、とくに男児は、小学校のトイレで「うんこ」をすることをあれほどまで忌避するのだろうか。あれはなんだったのだ。 小学生のとき、校内でうんこをするというのは、きわめて勇気のいることだった。誰にも見つかってはならなかった。わたし自身…

ケンタッキー州「中絶を受ける妊婦に胎児の超音波画像を見せる法案」の続報

yomu.hateblo.jp 米国ケンタッキー州で、中絶手術を受ける妊婦に、胎児の超音波画像を見せ、心音を聴かせることを強制する法案が提出されたというニュースが今年のはじめにあった。 上記エントリではこの法案があまりにグロテスクだと批判をこころみたが、そ…

声が詰まる。

なぜひとは、うまく話せないことがあるのだろう。あらゆる人類が、機械音声のように、ただ情報伝達としてのコードを口から発音するだけなら、どれだけ「楽」だろうとおもう。 おもわず喉もとが硬く締め付けられて、ことばがうまく出ない。相手の相槌を待つこ…

イラク帰還米兵のはなしを聞きに行った。

豊中国際交流協会の小さなイベントに行った。 アッシュさんという名前のお兄さんが、戦地での自分の体験を話した。 アッシュさんは「イラク帰還米兵」である。高校卒業後に州兵に入隊し、計6年間、従軍した。かれはクウェートとイラクにいた。 アッシュさん…

出っ張ったところと凹んでるところ(おちんちん考)

おちんちんは出っ張っている。おまんこは凹んでいる。おちんちんというものがここまで出っ張っていなければ(哺乳類がペニスという器官を持たなければ、ということになるのだが)、人間の生き方やものの考え方というものはさまざまに変化しただろうとおもう…

東神戸病院内の「震災遺構」

狂犬病の予防接種のために東神戸病院(神戸市東灘区)に行ったら、なつかしいものを見つけた。 あまりうまく写真を撮れていないけれど、これは新規外来者が問診用紙に記入する机です。 んで、そこに置かれてた鉛筆。 これ、1995年の震災のとき、インドから救援…

震災追悼のこころみを神戸新聞に掲載してもらった

www.kobe-np.co.jp 去年の4月ころからこつこつ準備をしていた取り組みです。17日を前に、今日の朝刊で紹介していただきました。 記事内容はとても的確で、じぶんの舌足らずな説明を、紙面ではすっきりと過不足なくまとめてくださっていると感じました。ほん…

窓枠

実家で寝転んで窓から空を見ている。大阪や京都に比べると、神戸はわりと空が近い印象がある。雲の「きめ」がはっきりと見える。寒波の気流に引き込まれてゆく雲の動きに連動して、たまに部屋がふっと暗くなって、また明るくなる。東へ東へ移動してゆく。窓…

「小さなもの」がパブリッシュされたよ

雑誌『臨床哲学』18号が公刊されました。 http://www.let.osaka-u.ac.jp/clph/syuppan2_vol18.html 去年の早春から取り組んでいた「小さなもの」も載っています。 じぶんがこれまで書いたもののなかでいちばん大切なもの。とても嬉しい。 読んでもらえるとさ…

「中絶前の妊婦に胎児の画像と心音を」法案について

www.cnn.co.jp このニュースを教えてくれた方が「グロテスクの一言」と言ってくれた。わたしも同じ感想を持った。 この法律のグロテスクさ、ヤバさを多少分解してみたい。 1.心音を聴くのは妊婦だけ? 上記のニュース記事では妊婦が胎児の心音を聴く・画像…