しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

ことば

乳母がいて女官は死ぬ

高校のときだったと思うが、国語の古典の授業中にこんなことを先生に言われたのを覚えている。曰く、「女のひとって授乳期間中は月経が止まるのね、だからその間は妊娠しない。でも赤ちゃんを乳母に預けたら授乳しなくなるから月経が再開して、セックスした…

宮地尚子『トラウマにふれる 心的外傷の身体論的転回』(新刊ご恵投いただきました)

精神科医・医療人類学者の宮地尚子先生より、新刊書『トラウマにふれる』をご恵投いただきました。 ことばからからだへ、からだから性へ、性から社会へ、社会からひとへ、ひとからまた、ことばへ。そのような転回というか、「動き」をずっとたもった本である…

りっぱなことを書きたいわたし

気づくといろんなひとがりっぱなことを書いている。 揶揄や皮肉ではなくて、ほんとうに、いろいろなひとがいろいろなりっぱなことを書いている。 積み重ねられた知見であったり、研ぎ澄まされた問題意識であったり、社会で真に求められていることを正確に認…

書くことについて

文字とは元来、神秘をその凹凸や形状そのものにおいて凄烈に現す場であるか、もしくは呪いの意図がいったん滞留する場である。卜占においては文字は書き手なく現れる。呪いにおいては文字は読み手なく刻まれる。いずれの場合も、文字は激しい恐怖や畏怖の感…

拒む

災害に関連する「作品」に対する瞬発的な拒絶感のようなものがある。とりわけ、壁画、オペラ、合唱といった大掛かりなモノに対する否定的感覚がある。食わず嫌いというのか、中身を十分に検分しないまま、受け入れることを拒絶している。生理的な、という言…

2行目は聞いてもらえない

社会人になって気づいたことに、世の中のひとは必ずしもわたしの発話の「2行目」を聞いてはくれない、ということがある。聞いてくれるひとと、そうでないひとがいる。2行目というか、2文目というか、たとえば「一般的にはAです、ただしこの場合は特殊例とし…

ことばを覚える前の夢

英語で話す夢を見た。とても流暢というのではなかったけれど、わりとすんなりとやりとりしていた。起きてから、現実でもあれぐらい話せればとりあえず助かるのだけれどなあと思った。 英語を話せないのに、英語で話す夢を見た。とすると、わたしは母語を話す…

伊藤野枝『乞食の名誉』における電車内の記述

少し前、電車でどこかに「行く」という表現は奇妙だと書いた。そのとき、夏目漱石の小説『坑夫』に、歩いていた主人公が途中で汽車に乗るシーンが出てくるということを、記憶のまま書いた。 その後、電車の車内の書き方ということに少し関心を持っていた。 …

「遠いい」

さいきん、関西圏で、「遠い」と言うとき「トオイイ」と語尾のイを重ねて発音する例をたまに聞く。若い人に多い気がする。ある地域で昔から言われていた方言の一種でありそれが広がっているのか、それとも最近になって発生した新しい言い方なのか知らない。…

連れてゆかれる

高速神戸駅から十三駅まで車内でうとうととしていた。電車に乗るというのは不思議な体験であるとおもう。それは「連れてゆかれる」という体験である。 わたしたちは日常、列車に乗ってA駅からZ駅まで〈行く〉と言う。けれども列車の車内で何か〈行く〉ことの…

東北へのチューン

先週、個人的な旅行で宮城県を歩き回って、きょうまた学会で仙台に来ている。きょうの仙台は関西に比べるとかなり涼しい。帰りたくない。先週の旅行と今日の学会ではっきりと自覚したことがある。それは、東北の「被災地」に対して自分のアンテナの周波数の…

特別な皮

世の中には膨大なる種類の皮がある。 皮は剥いたり、めくれたり、はがれたり、余ったり、傷ついたりする。 他の言語ではわからないけれど、日本語の「かわ」はすべての「かわ」を意味していて、その範囲は広い。桃の皮も大根の皮もスイカの皮も皮である。動…

柔らかい現実と硬い現実

自然災害と戦災を同列に扱うことができるか否か、ということを先週書いた。このときわたしは、復興という観点では同列視できない部分があるという立場をとった。 しかし、個々人の体験という観点においては、自然災害と戦災は共通する部分があるとおもってい…

リテラシー

大多数の人間が自分よりいくぶん愚かであり、読解力や共感能力に欠け、たいてい政治的に不十分な見解を持ち選挙ではいつも間違った選択をしている…と、大多数の人間が思っている。そういう時代であるような気がする。マジョリティとは自分より少し未熟なひと…

「業者」とかいう謎の組織

日本に住み初めて、かれこれ30年以上になる。 日常会話についてはそれなりに慣れてきたつもりだし、日本語で書かれた本もそのまま読むことができる。ブログもこうやって日本語で書いてみている。それでも、なんなんだこれは、と不思議に感じる日本語に出会…

ふみふみこさんの同世代感がはんぱない

ふみふみこさんの漫画が好きで、たまにぽちぽちと買って読んでいる。 どこらへんが好きなのか。ひとつは使われていることばが不思議とやわらかいこと。シュークリームの皮みたいなかんじ。それから、線がやわらかいこと。線もことばも、狙って「やわらかく」…

支援と「別世界感」(『セックスワーク・スタディーズ』)

セックスワーク・スタディーズ 作者: SWASH 出版社/メーカー: 日本評論社 発売日: 2018/09/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 指導教員が勧めていたので読んでみた。あ、これは読んでおいてよかったなと思った。同じテーマにくくることはでき…

からだが触る

今はもう昔のことになってしまったけれど、学部生のとき、全盲の学生と共に授業に出て板書内容をノートPCに打ち込んでゆくという有償ボランティアをしたことがあった。授業後、その学生が白杖で足元を探りながら教壇上の老教授のもとに近づいた。そのとき、…

読書の声のスピード感

本を読んでいるとき、頭の中で「音声」を再生するように読むのか、それともそうした音声抜きに読むのかという違いがある。これは個人差があるらしい。 わたしの場合は、読書体験の8割ほどは前者の「音声」型だが、読んでいるうちにいつのまにか音声が抜けて…

分別と「つく」

分別という言葉は日常語の体系の中に組み込まれていて、いろいろな意味を含んでいるのに、この言葉が日本の哲学や倫理学のなかで「実践理性」などの用語ほどには確かな位置を与えられていないことは残念なことだとおもう。 そこで「分別」について少しだけ考…

3人以上で話すことができない

数年前から気づいていたことなのだけれど、わたしは3人以上のグループで会話することがほぼできない。たとえば自分含めて4人がひとつのテーブルに座っていて、ひとつの話題について順に交代しながら会話を続ける、ということがほぼ不可能である。 やってやれ…

「周知のように」を論文で使うべきか否か

「周知のように」という便利な表現がある。「みなさんもすでによくご存知のように」という意味で、とくに論文では使い勝手が良い。 いま自分が書いている論文で、「周知のように」を使っている段落が一箇所だけあった。これを省くかどうか迷っている。 正確…

声と傷: 朴璐美様のリテイク

『∀ガンダム』のロラン役、『鋼の錬金術師』のエド役で有名な声優・朴璐美さんのロング・インタビューが非常に面白かったので紹介したい。 いろいろなことが語られているが、いちばん心に残ったのが『鋼の錬金術師』の有名な「君みたいな勘の良いガキは嫌い…

いろいろな話し方

被災者支援を23年間されてきた(いまも続けている)方にお会いした。派手なことばを使わず、声を張り上げず、得意げにならず、けれども確かなことを、ぼつぼつ、ぼつぼつと語られた。 聞いたことをすぐにまとめようと思い、地元のよく知っている喫茶店に入っ…

無題ん

知覚は明らかに人間にとって重荷であって、もしことばがなければこの重荷のために人間は簡単にへしゃげてしまうに違いない。

「いたたまれない」への抗議

「いたたまれない」という言葉は、日本語を学ぶひとにとってきわめて不親切な言葉だとおもう。 実質的に「いたたまれない気持ち」という表現でしか使うことができないからだ。 「いたたまれない」の使い方を覚えたとしても、そこから語彙が広がらない。「い…

stomachacheは「胃痛」ではない(?)

以下は、最近3ヶ月在米していたパートナーから教えてもらった話。外国語学部出身で、英語のよくできる人である。 あるとき胃の不快感に悩まされ、薬局で「stomacacheに効く薬をくれ」と頼んだ。欲しかったのは日本でいう「胃薬」である。しかし出されるのは…

声が詰まる。

なぜひとは、うまく話せないことがあるのだろう。あらゆる人類が、機械音声のように、ただ情報伝達としてのコードを口から発音するだけなら、どれだけ「楽」だろうとおもう。 おもわず喉もとが硬く締め付けられて、ことばがうまく出ない。相手の相槌を待つこ…

2才児の会話は脈絡が無いがテンポがある

年始ということで実家に帰ると、妹家族がいた。甥(2才半)と母親(わたしの妹)は何かずっと会話をしている。しかしその会話を聞いていると、ひとつずつのやりとりは何か意味があるけれど、全体としてはきわめて脈絡が無いことに気づく。1分のうちに3回…

個人的2016年流行語大賞「もらえる」

「もらえる」という表現が多く使われるようになった。この一年でとても増えたのではないかと思う。世相を反映しているような気がする。 ここでいう「もらえる」は、企業が消費者へ景品を配るときの広告表現である。 以前はこういう場合、「もらえる」ではな…