しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

ことば

いやいやの主体

1歳半が近づき、こどもの「いやいや」が増えてきた。 増えてきたというより、キレが増してきたというほうが正確だろうか。首の振り方に俊敏さと力強さがこもっている。首をぎゅぎゅんと振り、握ったものを渡すまいと両手を左右に振り、軟体動物と化して床に…

関西弁で『ぐりとぐら』

きのうの朝、こどもが絵本を掴んで渡してきた。保育所に出るまでまだ時間があったのでその『ぐりとぐら』を読むことにした。こどもがわたしのあぐらのなかにすぽんと座り込んだ。 いつもは書いてある文章をそのまま読むのだけれど、そうしなくてもいいかと思…

「こ!」と「う!」

こどもの発音の変化が激しい。頻繁に現れる発音が、長くて1ヶ月、短くて2週間くらいで入れ替わる。1ヶ月前のエントリーで、こどもが興味深いものに出会ったとき「こぉヮ」と上顎を鳴らすような発音をすることを書いた。 また、昨年秋に、母親がいないとき…

積み木を積む(主に大人が)

こどもに積み木を持ってきてくれるようサンタさんに依頼した。積み木を選んでよかったなとおもっている。ボーネルンドの製品で、サンタさん曰くすこし値が張ったがまあいいでしょう、と。 こども(9月半)はまだ積み木を積み木として遊びはしない。まずお気…

上顎を鳴らす

9月半になったこどもは、かなり早い時期から、面白いもの・興味深いもの・好奇心を刺激するものを目にしたり手に取ると(かれの場合、この2つはほとんど同じであり、さらに「唇と舌でしゃぶってみる」がたいてい付け加わる)、独特の声を出す。それは上顎と…

列車とお客様との接触

新快速に乗っていたら西明石駅で「列車とお客様が接触」したので大阪止まりになると車内放送があった。 「接触」とは不思議な表現で、字義どおりに受け取るなら駅の乗客と列車がふっと触れ合うくらいで何の傷も受けていないようにも聞こえる。 しかし実際に…

「んま」と「ぷっぷっぷ」

スウェーデンボルグという神秘家は天国と地獄を見てきたという。天国の住民たちは「天使語」で会話し、地獄の住民たちは永遠とお互いに口論をしているのだという。なおスウェーデンボルグによれば、地獄には希望者が行くという制度であるらしい。 こどもが生…

遠すぎた乳首

新生児と1ヶ月過ごしていて印象深いことの一つに、かれの身体の動きの多くが「反射」によって支配されていることがある。 上記のサイトに多くの「原始反射」が載っている。このうち、「手掌把握反射」「モロー反射」「口唇吸啜反射」は、日常の育児のなかで…

父親であろうとすることの「簡単さ」

こどもが産まれた日、じぶんは父親になったんだな、良い父親でありたいな、とおもった。ただ同時に、父親であろうとすることはとてもラクで、スムーズで、簡単なのだな、とも気づいた。この「簡単さ」はあやういと思った。 「父親であること」を「父親として…

不安と安心

こどもの表情や雰囲気を観察している。 生後2週くらいまで、大きく分けると「不快」「不安」「無」の3種類の表情を見せていた。「不快」は空腹時やお腹が張っているときなど、「不安」はベッドにひとりで寝かされて親が見当たらないときなど。 不快と不安の…

比喩が無い

数カ月ぶりに福島に来ています。帰還困難区域では家屋の解体撤去のペースが早まっているようです。当たり前のように並んでいた非日常的な光景が、原発事故から10年を過ぎて、「当たり前」でなくなっています。 説明も記述も自分には困難です。それは2つの理…

乗船不遑。登山難及。

『日本三代実録』巻16に、貞観地震津浪についての短い記述がある。 真っ黒な海が盛り上がって津浪が押し寄せ、内陸の数十百里も海となってしまい、その果てがわからないくらいだった… といった意味らしい。 そのなかに「乗船不遑。登山難及。溺死者千許」と…

あまえび

「甘エビ」という名称は、当の甘エビの立場からすると異様に残忍なものであると思う。 人間「おまえ、甘エビっていう名前なんやで…」 甘エビ「えっ…?」 人間「なんでか知りたいか? 食べたら甘いからや」 甘エビ「ギャァ!!!」 甘エビの持つ多様な存在様…

ラジオ関西「知らないけど知っている~私たちの1.17~」日本民間放送連盟優秀賞

ラジオ関西さんが今年1月17日に放送された番組「知らないけど知っている~私たちの1.17~」が、2021年日本民間放送連盟(ラジオ報道番組)で優秀賞を受賞されました。 震災後うまれの津田アナウンサーと、さらに若い長田高校放送部の生徒さんたちが、95年の…

「なにものでもなかった」

オリンピックもパラリンピックも全く見ておらず、この車椅子バスケットボールの展開も記事で初めて知った。書き留めておこうと思った。 2000年シドニー大会以来のメダルを逃したことに加え、58点差での大敗。厳しい現実は、日本の選手が悲嘆に暮れることすら…

書くこと

コロナウイルスの感染拡大が始まる以前の時期に書いていたものを読み返したり思い返したりしてみると、どことなく軽やかさを帯びているというのか、現実からわずかに浮いたような文章を書くことができていたのだなと気づく。そのころは、今日はすこしばかり…

「ワクチンを打つ」

オカン「市長がワクチン打ってる」ってそりゃ市長もワクチン打つやろ…って見たら"医師免許持ってる市長が市職員に"ワクチン打ってた…つよい — 唐辛子 (@mantoogarako) 2021年7月1日 日本語ややこしい。 「うちの父はワクチン打ってきたよ」「ぼくはまだワク…

「、とアウステルリッツは語った、」

「この時ゼーバルト氏が朗読したのがどの作品だったのかは正直言って覚えていない。今「アウステルリッツ」を開いて読み返すと、一瞬ゼーバルト氏の声がメランコリーをともなって耳の中に蘇ってくるが、黙読しているとその声はいつの間にか遠ざかっていき、…

共著書が出版されました:ほんまなほ監修・中川真責任編集『アートミーツケア叢書3 受容と回復のアート 魂の描く旅の風景』生活書院、2021年

アートミーツケア学会が出す叢書の第3巻です。じぶんは「「だから」と「それから」 K復興住宅のミノルさんのこと」という文章を書きました。 この原稿を書いているときは不思議な感覚で、骨身を削り込んで苦悶しながら書いたのでも、計画的にきちっとスマー…

乳母がいて女官は死ぬ

高校のときだったと思うが、国語の古典の授業中にこんなことを先生に言われたのを覚えている。曰く、「女のひとって授乳期間中は月経が止まるのね、だからその間は妊娠しない。でも赤ちゃんを乳母に預けたら授乳しなくなるから月経が再開して、セックスした…

宮地尚子『トラウマにふれる 心的外傷の身体論的転回』(新刊ご恵投いただきました)

精神科医・医療人類学者の宮地尚子先生より、新刊書『トラウマにふれる』をご恵投いただきました。 ことばからからだへ、からだから性へ、性から社会へ、社会からひとへ、ひとからまた、ことばへ。そのような転回というか、「動き」をずっとたもった本である…

りっぱなことを書きたいわたし

気づくといろんなひとがりっぱなことを書いている。 揶揄や皮肉ではなくて、ほんとうに、いろいろなひとがいろいろなりっぱなことを書いている。 積み重ねられた知見であったり、研ぎ澄まされた問題意識であったり、社会で真に求められていることを正確に認…

書くことについて

文字とは元来、神秘をその凹凸や形状そのものにおいて凄烈に現す場であるか、もしくは呪いの意図がいったん滞留する場である。卜占においては文字は書き手なく現れる。呪いにおいては文字は読み手なく刻まれる。いずれの場合も、文字は激しい恐怖や畏怖の感…

拒む

災害に関連する「作品」に対する瞬発的な拒絶感のようなものがある。とりわけ、壁画、オペラ、合唱といった大掛かりなモノに対する否定的感覚がある。食わず嫌いというのか、中身を十分に検分しないまま、受け入れることを拒絶している。生理的な、という言…

2行目は聞いてもらえない

社会人になって気づいたことに、世の中のひとは必ずしもわたしの発話の「2行目」を聞いてはくれない、ということがある。聞いてくれるひとと、そうでないひとがいる。2行目というか、2文目というか、たとえば「一般的にはAです、ただしこの場合は特殊例とし…

ことばを覚える前の夢

英語で話す夢を見た。とても流暢というのではなかったけれど、わりとすんなりとやりとりしていた。起きてから、現実でもあれぐらい話せればとりあえず助かるのだけれどなあと思った。 英語を話せないのに、英語で話す夢を見た。とすると、わたしは母語を話す…

伊藤野枝『乞食の名誉』における電車内の記述

少し前、電車でどこかに「行く」という表現は奇妙だと書いた。そのとき、夏目漱石の小説『坑夫』に、歩いていた主人公が途中で汽車に乗るシーンが出てくるということを、記憶のまま書いた。 その後、電車の車内の書き方ということに少し関心を持っていた。 …

「遠いい」

さいきん、関西圏で、「遠い」と言うとき「トオイイ」と語尾のイを重ねて発音する例をたまに聞く。若い人に多い気がする。ある地域で昔から言われていた方言の一種でありそれが広がっているのか、それとも最近になって発生した新しい言い方なのか知らない。…

連れてゆかれる

高速神戸駅から十三駅まで車内でうとうととしていた。電車に乗るというのは不思議な体験であるとおもう。それは「連れてゆかれる」という体験である。 わたしたちは日常、列車に乗ってA駅からZ駅まで〈行く〉と言う。けれども列車の車内で何か〈行く〉ことの…

東北へのチューン

先週、個人的な旅行で宮城県を歩き回って、きょうまた学会で仙台に来ている。きょうの仙台は関西に比べるとかなり涼しい。帰りたくない。先週の旅行と今日の学会ではっきりと自覚したことがある。それは、東北の「被災地」に対して自分のアンテナの周波数の…