しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

2016-01-01から1年間の記事一覧

2016年に書いたもの

2016年に書いたもの、学会で発表したことをまとめておくことにする。 (厳密には「2015年度」に含まれるものや、2016年内にpublishされなかったものも含まれるけれど) その1 リフトンの修士論文 「R. J. リフトンのサバイバー研究における「変容」思想につ…

個人的2016年流行語大賞「もらえる」

「もらえる」という表現が多く使われるようになった。この一年でとても増えたのではないかと思う。世相を反映しているような気がする。 ここでいう「もらえる」は、企業が消費者へ景品を配るときの広告表現である。 以前はこういう場合、「もらえる」ではな…

手を見る、手を触る

忘年会で、なんとなくすることもなくて、同席者の手を見ていた。 ある程度知っているひとの手を見ると、なんとなく納得するものがある。ああ、たしかにこのひとはこういう手のひとだなぁと感じる。大きな、わしっとした手。肉付きの良いまるっとした手。細く…

マイクロフィルムを使った/記録密度と信頼感は反比例する

マイクロフィルムを初めて触った。 神戸の中央図書館で使った。神戸新聞の記事を調べる必要があった。1995年から1997年までの記事で、ネットでは検索できない。マイクロフィルムで保管されている。 フィルムのリールを映写機に取り付けて、手元のツマミでフ…

便箋に時間を吸わせる。

手紙を書いたあと、その便箋をすぐに封筒に入れて封をせず、しばらく机のうえに置いたままにしておくことがある。便箋が部屋の時間を「吸っている」ようなきぶんになる。すぐに投函しても、2日ほど間を置いてから投函しても、便箋に書いた内容には変化は無い…

白ランスロットとメル・ギブソン

高校生のころから、『タクティクスオウガ』の白ランスロットがなんで男なのにスカーフみたいなのを頭に巻いてるのかわからなかった。 (上記画像はPSP版『運命の輪』。自分がプレイしたのはPS版無印) さいきんアマゾンで『ブレイブハート』を観たら、メル・…

2才児「こえわー?」ラッシュ

2才の甥が「はたらくくるま」の本をひらく。警察、消防、工事用車両などなどがページごとに載っている。載っている車をひとつずつ指差して、「こえわー?」と聞く。「これは、『コンクリートミキサー車』」と妹(2才児の母)が答えてゆく。 全ての車につい…

「間」を獲得する甥(2歳)

10日ぶりに甥とその母(わたしの妹)と会うと、以前と違って会話に「間」ができていて、びっくりした。 具体的には、甥が妹に何か言ったあと、彼女の返答をうまく待つようになっていた。そのため、両者とも声を出していない時間が生まれている。客観的には0.2…

Ciniiは研究者を幸福にしたか

CiniiとAmazonが無い時代、院生や研究者はどうやって研究をしていたのだろう、と思う。 Ciniiは日本語論文の総合検索サイト。日本国内では、ほかにJ-STAGEや医中誌WEBやメディカルオンラインといった論文関連のサイトがある。海外にもまたいろいろある。分野…

丁々発止母子

実家に帰ると、妹と甥がいた。 甥は2歳を過ぎて、「いや!」をよく言うようになっていた。 お風呂に入る、いや!! おしめ換える、いや!! 母親(妹)とかれの様子を見ていたが、この「いや」に対する即座の応答のキレが、すごい。祖母も「いや」に対応するの…

樹木に「いま」はあるか

キャンパスの落葉樹の枝があらかた裸になって、尖った枝先を見るともう小さな芽が付いている。このまま春までじっと待機していて、そのときが来たら一斉に芽吹く。堅く詰められた火薬みたいだなと思う。その姿勢のまま春の発芽のときを今か今かと待っている…

身と身体

身体の現象学、という哲学のテーマがある。 「真理」や「存在」や「永遠」といった抽象的な概念について考えるのが哲学だと思われがちだけれど、もっと身近で、しかも身近であることがわかっていない出来事、つまりこの「身体」がわたしたちにとってどう現れ…

初代ウルトラマン第三話感想

初代『ウルトラマン』を見ていた。第三話「科特隊出撃せよ」で、電気を吸うネロンガという怪獣が出てきて発電所に現れるのだが、自分のエネルギー源のはずの電気を生産してくれている発電所を破壊していた。ネロンガは水力発電所を壊したあと別の火力発電所…

「覚え」と「記憶」

「そういえば以前ここに来たときは、バスがなかなか来なくて寒かった覚えがあるなぁ」などと言うことがある。 この場合の「覚え」は「記憶」と言い換えることもできる。 では、「覚え」と「記憶」は同じ現象だろうか。「覚え」は何かを覚えていること、その…

ゼットン戦とゼルエル戦

たまたまYoutubeで初代ウルトラマンのゼットン戦の動画を観ると、『エヴァンゲリオン』のゼルエル戦となんかそっくりやなぁ、と思った。 www.youtube.com ゼットンはウルトラマン最強の敵とされる。作中でウルトラマンはゼットンの高い攻防能力に翻弄され、…

鏡を見なければできないこと

鏡を見ながらハサミを鼻の穴に入れて鼻毛を切ろうとすると、奇妙な難しさがあった。ということを先日書いた。 そのなかで、鏡を見なければできない作業が意外と無い、ということを書いた。 ここで書いた「作業」とは、日常の作業のなかで、とくに手を使って…

鏡を見て鼻毛を切りづらい

鼻毛が伸び出しているので、鏡を見ながらハサミの先を鼻の穴に差し入れて鼻毛を切ろうとすると、すごくむずかしい。 ハサミを右手に持って、左手に持った紙を切る。これは難しくない。 ハサミを右手に持って、左手の手の甲の産毛を切る。これも、刃が肌にひ…

大学校舎の災害避難訓練がけっこう無意味っぽかった(らしい)

きのう研究室にゆくと、いまちょうど避難訓練が終わったところ、と教えられた。 文学研究科が入っている校舎(法学研究科、経済学研究科も同居)の避難訓練だったらしい。 避難訓練の手順を聞くと、かなり無意味な…というのは言い過ぎかもしれないけれど、さ…

なぜソシエはターンエーのラストでロランにキスをしたのか

アマゾンのプライムビデオで『ターンエーガンダム』が公開されていた。もう何度目かわからないけれど、劇場版(地球光/月光蝶)を通して見た。 好きなシーンがたくさんある映画だけれど、物語の最後もそのひとつだ。戦争が終わり、ひとびとはまた平和な生活…

逆再生昔話

ツイッターで、「桃太郎」の絵本を逆から読むと面白かった、という話があった。 他の昔話・童話ではどうなるか、試してみた。 1. 逆再生・浦島太郎 ある見知らぬ村におじいさんが迷い込んでいた。おじいさんの身体にまとわりついていた煙が箱に吸い込まれて…

スチール本棚を買った

いまのワンルームに引っ越して一年余、本棚無しで研究生活を送ってきた。 現在、書籍は段ボール箱などに入れて保管している。数えてみたら、引っ越し時に詰めた段ボール箱7つ、ニトリで購入した整理用の段ボール箱が大サイズ中サイズ2つずつ、計11個箱に…

土人考

「土人」が尊称・敬称になる日が来るであろうか。土人を蔑称として使うなら、その人自らは空の人、天の人であろうか。空の人は死ねば土に埋もれぬのであろうか。あるいは霊魂はパケットや電磁波となって土に決して触れぬままであろうか。 土人を土から引き剥…

「うつは『心の風邪』ではなく『脳の肝硬変』」を読んで考えたこと

うつ病は「心の風邪」とよく喩えられるけれど、むしろ「脳の肝硬変」と考えたほうが良い、というtogetterまとめを読んだ。なるほどな、と思った。 togetter.com まとめの中で指摘されていることだが、「心の風邪」という表現はもともと、「誰でもうつ病にな…

大きな蜘蛛は大きいのか

下宿の部屋に大きなクモが現れた。驚いた。 小さなクモはわりと好きだ。指先に載るようなクモが部屋の壁をそろそろと歩いているのを見ると、なぜということもなく嬉しくなる。 けれども、さっき現れたクモは、子どもの手のひらくらい大きかったので、ちょっ…

幸福な宇宙人を想像するライプニッツ

ライプニッツ『弁神論』から。少し長いですが、美しい文章だったので引用します。 古代の人々にとっては、人が住めるのはわれらの地球だけであった。それでもなお彼らは対蹠地に恐れを抱いていた。それ以外の世界は彼らにとっては光り輝く球体であったり水晶…

石巻専修大学のこと

災害復興学会という学会の大会に来た。 初めての参加だったけれども、なんだか歓迎してもらったかんじで、素直に嬉しかった。 懇親会で、会場となった石巻専修大学の前学長という方にお話を聞いた。 石巻専修大学では、2011年の震災で6名の学生を失った、と…

臍帯(へその緒)は赤ちゃんと産婦のどちらに属するのか

助産師の友人と、分娩時の臍帯(へその緒)の扱いについて話す機会があった。 臍帯を切るのだけれど、そこに含まれている血が噴き出るため、クリップのような器具で臍帯を挟んでからハサミで切るのだそうだ。 「臍帯をちょきっと切っても痛くないんですか?…

堤防に腕を突っ込んで死んだオランダの悪ガキの話

道徳と倫理の違いは何か、ということを考えたりする。 小学校のときの「道徳」の教科書に、「水が噴き出していた堤防の穴に腕を突っ込んで町が水没するのを防いだが自分は死んでしまったオランダの悪ガキ」の話があって、なぜかその物語だけよく覚えている。…

なぜ就活と卒論が切り離されているのか。

なぜ、卒論など書かねばならないのか。 大卒者を採用する企業は、学生の卒論を吟味して採用を決めればよいのに、とおもう。理工系はそういったところもあるのだろうか。少なくとも文系では聞いたことがない。現状の制度では、新卒者の内定決定は卒論執筆より…

さいきん読んだものから:花崎皋平『静かな大地』

近現代のアイヌに対するシャモ(和人)の侵略と支配の歴史を少しずつ学ぶうちにわかってきたことのひとつに、日本国家の側は、アイヌ民族への同化政策が完了したとの総括に立って、台湾の高地民族への同化政策に応用をはかっていたということがある。 戦前、…