しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

ことば

特別な皮

世の中には膨大なる種類の皮がある。 皮は剥いたり、めくれたり、はがれたり、余ったり、傷ついたりする。 他の言語ではわからないけれど、日本語の「かわ」はすべての「かわ」を意味していて、その範囲は広い。桃の皮も大根の皮もスイカの皮も皮である。動…

柔らかい現実と硬い現実

自然災害と戦災を同列に扱うことができるか否か、ということを先週書いた。このときわたしは、復興という観点では同列視できない部分があるという立場をとった。 しかし、個々人の体験という観点においては、自然災害と戦災は共通する部分があるとおもってい…

リテラシー

大多数の人間が自分よりいくぶん愚かであり、読解力や共感能力に欠け、たいてい政治的に不十分な見解を持ち選挙ではいつも間違った選択をしている…と、大多数の人間が思っている。そういう時代であるような気がする。マジョリティとは自分より少し未熟なひと…

「業者」とかいう謎の組織

日本に住み初めて、かれこれ30年以上になる。 日常会話についてはそれなりに慣れてきたつもりだし、日本語で書かれた本もそのまま読むことができる。ブログもこうやって日本語で書いてみている。それでも、なんなんだこれは、と不思議に感じる日本語に出会…

ふみふみこさんの同世代感がはんぱない

ふみふみこさんの漫画が好きで、たまにぽちぽちと買って読んでいる。 どこらへんが好きなのか。ひとつは使われていることばが不思議とやわらかいこと。シュークリームの皮みたいなかんじ。それから、線がやわらかいこと。線もことばも、狙って「やわらかく」…

支援と「別世界感」(『セックスワーク・スタディーズ』)

セックスワーク・スタディーズ 作者: SWASH 出版社/メーカー: 日本評論社 発売日: 2018/09/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 指導教員が勧めていたので読んでみた。あ、これは読んでおいてよかったなと思った。同じテーマにくくることはでき…

からだが触る

今はもう昔のことになってしまったけれど、学部生のとき、全盲の学生と共に授業に出て板書内容をノートPCに打ち込んでゆくという有償ボランティアをしたことがあった。授業後、その学生が白杖で足元を探りながら教壇上の老教授のもとに近づいた。そのとき、…

読書の声のスピード感

本を読んでいるとき、頭の中で「音声」を再生するように読むのか、それともそうした音声抜きに読むのかという違いがある。これは個人差があるらしい。 わたしの場合は、読書体験の8割ほどは前者の「音声」型だが、読んでいるうちにいつのまにか音声が抜けて…

分別と「つく」

分別という言葉は日常語の体系の中に組み込まれていて、いろいろな意味を含んでいるのに、この言葉が日本の哲学や倫理学のなかで「実践理性」などの用語ほどには確かな位置を与えられていないことは残念なことだとおもう。 そこで「分別」について少しだけ考…

3人以上で話すことができない

数年前から気づいていたことなのだけれど、わたしは3人以上のグループで会話することがほぼできない。たとえば自分含めて4人がひとつのテーブルに座っていて、ひとつの話題について順に交代しながら会話を続ける、ということがほぼ不可能である。 やってやれ…

「周知のように」を論文で使うべきか否か

「周知のように」という便利な表現がある。「みなさんもすでによくご存知のように」という意味で、とくに論文では使い勝手が良い。 いま自分が書いている論文で、「周知のように」を使っている段落が一箇所だけあった。これを省くかどうか迷っている。 正確…

「ズキズキ」と「ずきずき」

授業で擬音語・擬声語と擬態語の区別を扱った。擬音語・擬声語は、「ガシャガシャ」「ワンワン」のように、音や声の様子をことばに表したもの。擬態語は「そわそわ」「うろうろ」のように、ものごとの様子を表すもの。 書き言葉では、擬音語と擬声語はカタカ…

声と傷: 朴璐美様のリテイク

『∀ガンダム』のロラン役、『鋼の錬金術師』のエド役で有名な声優・朴璐美さんのロング・インタビューが非常に面白かったので紹介したい。 いろいろなことが語られているが、いちばん心に残ったのが『鋼の錬金術師』の有名な「君みたいな勘の良いガキは嫌い…

いろいろな話し方

被災者支援を23年間されてきた(いまも続けている)方にお会いした。派手なことばを使わず、声を張り上げず、得意げにならず、けれども確かなことを、ぼつぼつ、ぼつぼつと語られた。 聞いたことをすぐにまとめようと思い、地元のよく知っている喫茶店に入っ…

無題ん

知覚は明らかに人間にとって重荷であって、もしことばがなければこの重荷のために人間は簡単にへしゃげてしまうに違いない。

「いたたまれない」への抗議

「いたたまれない」という言葉は、日本語を学ぶひとにとってきわめて不親切な言葉だとおもう。 実質的に「いたたまれない気持ち」という表現でしか使うことができないからだ。 「いたたまれない」の使い方を覚えたとしても、そこから語彙が広がらない。「い…

RightとLeftが無い時代

英語では右をRight、左をLeftと言う。ところでRightには「正しい」「まっすぐな」という意味もある。 Rightは古い英語ではrihtやrehtと言い、古フリジア語riuchtや古オランダ語rehtなどと同根であるという。さらに語源をたどると「まっすぐに進む」という意…

stomachacheは「胃痛」ではない(?)

以下は、最近3ヶ月在米していたパートナーから教えてもらった話。外国語学部出身で、英語のよくできる人である。 あるとき胃の不快感に悩まされ、薬局で「stomacacheに効く薬をくれ」と頼んだ。欲しかったのは日本でいう「胃薬」である。しかし出されるのは…

声が詰まる。

なぜひとは、うまく話せないことがあるのだろう。あらゆる人類が、機械音声のように、ただ情報伝達としてのコードを口から発音するだけなら、どれだけ「楽」だろうとおもう。 おもわず喉もとが硬く締め付けられて、ことばがうまく出ない。相手の相槌を待つこ…

出っ張ったところと凹んでるところ(おちんちん考)

おちんちんは出っ張っている。おまんこは凹んでいる。おちんちんというものがここまで出っ張っていなければ(哺乳類がペニスという器官を持たなければ、ということになるのだが)、人間の生き方やものの考え方というものはさまざまに変化しただろうとおもう…

「小さなもの」がパブリッシュされたよ

雑誌『臨床哲学』18号が公刊されました。 http://www.let.osaka-u.ac.jp/clph/syuppan2_vol18.html 去年の早春から取り組んでいた「小さなもの」も載っています。 じぶんがこれまで書いたもののなかでいちばん大切なもの。とても嬉しい。 読んでもらえるとさ…

2才児の会話は脈絡が無いがテンポがある

年始ということで実家に帰ると、妹家族がいた。甥(2才半)と母親(わたしの妹)は何かずっと会話をしている。しかしその会話を聞いていると、ひとつずつのやりとりは何か意味があるけれど、全体としてはきわめて脈絡が無いことに気づく。1分のうちに3回…

個人的2016年流行語大賞「もらえる」

「もらえる」という表現が多く使われるようになった。この一年でとても増えたのではないかと思う。世相を反映しているような気がする。 ここでいう「もらえる」は、企業が消費者へ景品を配るときの広告表現である。 以前はこういう場合、「もらえる」ではな…

便箋に時間を吸わせる。

手紙を書いたあと、その便箋をすぐに封筒に入れて封をせず、しばらく机のうえに置いたままにしておくことがある。便箋が部屋の時間を「吸っている」ようなきぶんになる。すぐに投函しても、2日ほど間を置いてから投函しても、便箋に書いた内容には変化は無い…

2才児「こえわー?」ラッシュ

2才の甥が「はたらくくるま」の本をひらく。警察、消防、工事用車両などなどがページごとに載っている。載っている車をひとつずつ指差して、「こえわー?」と聞く。「これは、『コンクリートミキサー車』」と妹(2才児の母)が答えてゆく。 全ての車につい…

「間」を獲得する甥(2歳)

10日ぶりに甥とその母(わたしの妹)と会うと、以前と違って会話に「間」ができていて、びっくりした。 具体的には、甥が妹に何か言ったあと、彼女の返答をうまく待つようになっていた。そのため、両者とも声を出していない時間が生まれている。客観的には0.2…

身と身体

身体の現象学、という哲学のテーマがある。 「真理」や「存在」や「永遠」といった抽象的な概念について考えるのが哲学だと思われがちだけれど、もっと身近で、しかも身近であることがわかっていない出来事、つまりこの「身体」がわたしたちにとってどう現れ…

「覚え」と「記憶」

「そういえば以前ここに来たときは、バスがなかなか来なくて寒かった覚えがあるなぁ」などと言うことがある。 この場合の「覚え」は「記憶」と言い換えることもできる。 では、「覚え」と「記憶」は同じ現象だろうか。「覚え」は何かを覚えていること、その…

土人考

「土人」が尊称・敬称になる日が来るであろうか。土人を蔑称として使うなら、その人自らは空の人、天の人であろうか。空の人は死ねば土に埋もれぬのであろうか。あるいは霊魂はパケットや電磁波となって土に決して触れぬままであろうか。 土人を土から引き剥…

石巻専修大学のこと

災害復興学会という学会の大会に来た。 初めての参加だったけれども、なんだか歓迎してもらったかんじで、素直に嬉しかった。 懇親会で、会場となった石巻専修大学の前学長という方にお話を聞いた。 石巻専修大学では、2011年の震災で6名の学生を失った、と…