しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

支援と「別世界感」(『セックスワーク・スタディーズ』)

 

セックスワーク・スタディーズ

セックスワーク・スタディーズ

 

 

 指導教員が勧めていたので読んでみた。あ、これは読んでおいてよかったなと思った。同じテーマにくくることはできないけれど、上間陽子さんの『裸足で逃げる』、伊藤詩織『ブラックボックス』と合わせてわたしの「古典」3作品になった。

 

それでは、次に支援者の想定からこぼれてしまいがちなセックスワーカーの例として、トランス男性のセックスワークについて見ていきます。トランス男性のセックスワークには店舗型のものもありますが、それとは別に個人で客を探す「売り専ボード」というものがあり、「売り専・FTM・ウリ」等で検索するとひっかかります。掲示板の中を見ると、例えばこんな投稿があります。

 

「都内でサポしていただける方募集してます。都内でホ別0.8、ゴム付でしたら挿し大丈夫です。未ホル/未オペ/見た目は中性的だと思います。プロフィールと場所を明記の上メールしていただけると助かります。よろしくお願いします。」

 

 この投稿の意味が分かるでしょうか? 答え合わせは後に回すとして、コミュニティの言葉を覚えるのはとても大事なことです。例えば電話相談で、ワーカーが「ホテヘルで働いていて…」という話をした時に、相談員が「ホテヘルって何?」と言ったとします。その時、相談した人が思うのは、この人、そういう業界のことを知らないで今まで生きてこれたんだな」という別世界感です。そうやって、夜の仕事や風俗に近寄るような人生ではなかった人が話を聴いているんだな、ということを相談者は敏感に感じ取ります。

 (SWASH編『セックスワークスタディーズ』日本評論社、2018年、51-2頁)

 

「別世界感」という言葉はこの文脈だけでなく、いろいろな場面で使えるだろうとおもう。

自分の経験では、悪い「別世界感」と、さらに悪い「別世界感」と、良い方向の「別世界感」の3種類がある。〈悪い〉パターンは、ここに挙げられているような、自分が相手の世界を知らないことで相手に与えてしまうもの。言葉のズレが亀裂となって、引き裂かれてゆく。

〈さらに悪い〉パターンは、本当は違う世界に住んでいるのに、あたかも同じ世界にいるかのように振る舞うときに相手が感じる別世界感。

〈良い方向〉のパターンの別世界感があるとすれば、自分が住む世界が相手と違うことを自分自身に確かめさせたうえで、相手の世界と言葉を知ろうとするときに双方向に生じるもの。