しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

読んだもの

「、とアウステルリッツは語った、」

「この時ゼーバルト氏が朗読したのがどの作品だったのかは正直言って覚えていない。今「アウステルリッツ」を開いて読み返すと、一瞬ゼーバルト氏の声がメランコリーをともなって耳の中に蘇ってくるが、黙読しているとその声はいつの間にか遠ざかっていき、…

共著書が出版されました:ほんまなほ監修・中川真責任編集『アートミーツケア叢書3 受容と回復のアート 魂の描く旅の風景』生活書院、2021年

アートミーツケア学会が出す叢書の第3巻です。じぶんは「「だから」と「それから」 K復興住宅のミノルさんのこと」という文章を書きました。 この原稿を書いているときは不思議な感覚で、骨身を削り込んで苦悶しながら書いたのでも、計画的にきちっとスマー…

兵庫県庁の抜き打ち防災訓練

大震災から2周年目にあたる平成9年1月14日、兵庫県は初めての完全抜き打ちの防災訓練をしました。(中略) この訓練では、訓練の関係者、関係機関には、「1月10日から30日までの間で姫路市内を訓練会場として抜き打ち訓練を実施する」ことだけを事前に伝え、…

江戸時代の被災者生活再建支援法

『武江年表』によると、焼失した町屋に対する下賜金の支給額は間口一間(182センチ)当たり金3両1分と銀6匁8分であった。匁に換算すると、一間あたり169匁3分(約34万円)になる。これだけの額の下賜金の支給は、江戸の復興を大いに後押ししたはずである。 …

お前もそこに寝ろ/謙虚な身体

赤坂 ぼくは聞き書きというのは、これがまったく初めての体験だったし、これまでにじっちゃんばっちゃんの話をまともに聞いたことがなかった。だから、いろいろ不安もあったけれども、聞き書きを始めたときには、もう裸になるしかないと覚悟を決めていました…

室戸台風は当初「室戸台風」と呼ばれていなかった

それでは、なぜ室戸台風は室戸台風なのか。 (…)中央気象台は『気象要覧』第421号(9月分・10月末発行)を出した。これが、われらの室戸台風を、まさしく〈室戸台風〉と名付けた最初の文献となるのである。(…) ところで、こうしたせっかく室戸台風と呼ば…

首都さえ占領すれば戦争は終わる

中林啓修先生が、新型コロナへの対応を「決戦」としてイメージしてはならない、持久戦・遅滞戦である、と春先に断言しておられた。 決戦とは両軍の主力が真正面からぶつかって雌雄を「決する」戦いである。決戦の結果、敗軍は壊走して首都ががら空きになり、…

鷲尾和彦写真集『Station』夕書房、2020年

オーストリア・ウィーン駅の難民の様子を捉えた写真集。 著者あとがきによると、駅にたまたま滞在した数時間のうちに難民の列車にゆきあい、3時間ほどで撮ったものだという。 撮られたひとびとの表情が多様であることに少し意外の感をもつ。 疲れ切った顔、…

幻に終わった日本最初のアスファルト舗装

一方、日本で初めてアスファルト舗装が実施された場所はどこでしょうか。それは、明治11年(1878年)に、神田昌平橋で行われた橋面舗装です。実は、この前年に東京上野公園で開幕した第一回内国勧業博覧会の会場で、日本発のアスファルト舗装を試みられてい…

江戸時代の「見試し」

「見試し」という方法があることを知った。現代的にいえば、フィードバックを重視した柔軟なエンジニアリング/プロジェクト管理手法、ということになるだろうか。 直接知ったのは、藤垣裕子氏の『専門知と公共性』という書籍から。少し長くなってしまうが、…

大震法の時代

「大規模地震対策特別措置法」という法律がある。大震法と略される。1978年(昭和53年)に成立した法律で、いわゆる「東海地震」の予知を前提としている。観測網が東海地震の前兆現象を捉え、学識者からなる「判定会」が東海地震の危険が迫っていると確認し…

宮崎駿と「薄ら寒さ」

宮崎駿の『雑想ノート』を小学5年生ぐらいのとき自分で買って読んだ。その巻末に宮崎へのインタビューが掲載されている。そのなかで、「『安松丸物語』を描いていたとき、どことなく薄ら寒かった」といったことを宮崎が述べている(記憶をもとに引いているの…

続刊を待っているコミック

個人的に続刊を待っているコミックをならべてみる。 鉄板 ダンジョン飯 8巻 (ハルタコミックス) 作者:九井 諒子 発売日: 2019/09/14 メディア: コミック もはや「ファンタジー+食」というジャンルすら拓いてしまった感がある。 宝石の国(10) (アフタヌーンK…

「人も荷物もごっちゃに」(アーサー・ビナード編著『知らなかった、ぼくらの戦争』)

ご飯なんか一日に一回くらいなので、お腹は減るし、死ぬ子が何人も出たんです。 ある親は、死んだわが子を何日も置いていたけど、周りから「臭い」っていわれて、海にザブーンって落として、泣いていたそうです。子どもを亡くした親の泣き声で、船中いっぱい…

伊藤野枝と電車内の記述 その2 大正時代の痴漢

『伊藤野枝集』を読んでいたら、もう一箇所、電車内についての記述が出てきたので書き抜いておく。 私はよくこみ合う電車の中などで、こみ合うのをいい幸にして、わざと身体をすりよせて来たりする不都合者に時々出遭います。そんな場合には、どうも表立って…

伊藤野枝『乞食の名誉』における電車内の記述

少し前、電車でどこかに「行く」という表現は奇妙だと書いた。そのとき、夏目漱石の小説『坑夫』に、歩いていた主人公が途中で汽車に乗るシーンが出てくるということを、記憶のまま書いた。 その後、電車の車内の書き方ということに少し関心を持っていた。 …

「逃げ遅れたのか、取り残されたのか、逃げる途中だったのか。」

3月11日は沿岸部に大きな被害がありましたが、4月7日の余震で、内陸にも被害がありました。私の自宅では、台所の食器棚が全部倒れました。私は寝室にいて、立っていられる四つん這いになって逃げたのですが、そのあとに寝室のタンスが倒れ、下敷きにならずに…

戦災と天災

『月刊社会科教育』という小中学校の社会科の先生を対象とした雑誌が、2011年8月号で「”災害の歴史”と人類の叡智」という特集を組んでいる。東日本大震災の直後の時期であり、社会科教育で災害をどのように扱うかがテーマとされている。 その中に、谷和樹氏…

関東大震災に教育界はどう反応したか(平野・大部2017)

東日本大震災の後、やはり防災教育は大切だということで、ちゃんと学校で防災を教えましょうという方針が国で固められた。(文科省内のページ:学校安全<刊行物>:文部科学省に答申や参考書がまとめられている) 防災教育は東日本大震災(2011年)のあと初…

いま読んでいるもの:金井淑子『倫理学とフェミニズム』(2013)

いつのまにか本棚に入っていた本を読んでいる。一節だけメモする。 倫理学とフェミニズム―ジェンダー、身体、他者をめぐるジレンマ 作者: 金井淑子 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版 発売日: 2013/06 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る 私…

ふみふみこさんの同世代感がはんぱない

ふみふみこさんの漫画が好きで、たまにぽちぽちと買って読んでいる。 どこらへんが好きなのか。ひとつは使われていることばが不思議とやわらかいこと。シュークリームの皮みたいなかんじ。それから、線がやわらかいこと。線もことばも、狙って「やわらかく」…

記憶の丸み: 西川祐子『古都の占領』(2017)

以前お世話になっていた先生に今の自分の研究(災害の記憶に関すること)を話したとき紹介された本を読み始めている。 古都の占領: 生活史からみる京都 1945‐1952 作者: 西川祐子 出版社/メーカー: 平凡社 発売日: 2017/08/28 メディア: 単行本 この商品を含…

支援と「別世界感」(『セックスワーク・スタディーズ』)

セックスワーク・スタディーズ 作者: SWASH 出版社/メーカー: 日本評論社 発売日: 2018/09/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 指導教員が勧めていたので読んでみた。あ、これは読んでおいてよかったなと思った。同じテーマにくくることはでき…

災禍の定義と「支援」(アンヌ・ブッシィ「フクシマの災害と災禍に対する社会の反応」(2015))

災禍の経験を通して、また、半世紀以上の多岐にわたる研究により、「災禍」は時代とともに様々な定義を与えられるようになった。(…)定義にこだわりすぎるのは無意味で無責任なことに思えるかもしれないが、フクシマの被害者のように、常に支援が必要な被災…

小此木啓吾「フロイト対フェレンツィの流れ」(2000)

小此木啓吾「フロイト対フェレンツィの流れ」『精神分析研究』44(1), 28-36, 2000. ・禁欲規則、分析の隠れ身、中立性、受け身性、医師としての分別を基本とするフロイト的態度。他方、人間的な愛情と温かい交流こそ治療の根本であるとするフェレンツィ的態…

「ポスト震災○○年」が不可視化するもの(稲津秀樹「被災地はどこへ消えたのか? 「ポスト震災20年における震災映画の想像力」2017年)

稲津秀樹「被災地はどこへ消えたのか? 「ポスト震災20年における震災映画の想像力」『新社会学研究』2, 2017, 46-56. つまり、「ポスト震災○○年」という言葉でもって震災の時空間が方向付けられる限り、私たちの想像力に1995年1月17日に現出した被災地のリ…

回復と下山(中井久夫『徴候・記憶・外傷』みすず書房、2004年)

急性期から回復していくのを、私は山から下りるのにたとえたことがあります。回復は山から下りるときの感じですね。私もちょっと山登りをしていたことがありますけれども、回復の一つの特徴は目標がはっきりしないことです。発病のときに目標があるかという…

山澤学「自然災害の記録と社会 『信州浅間山焼記』を事例に」(2016)

山澤学「自然災害の記録と社会 『信州浅間山焼記』を事例に」、伊藤純郎・山澤学編著『破壊と再生の歴史・人類学 自然・災害・戦争の記憶から学ぶ』筑波大学出版会、2016年、27-47頁。 (内容のごく大まかなまとめ) 『信州浅間山焼記』は、天明3年(1783年…

展開が無いことの恐ろしさ: 『ペリリュー 楽園のゲルニカ』6巻

武田一義、平塚柾緒(太平洋戦争研究会) 『ペリリュー 楽園のゲルニカ』6巻(ヤングアニマルコミックス、2019年1月)を読んだ。感想を書く。 本作は、太平洋戦争末期のペリリュー島の様相を、主に日本陸軍の兵士たちの視線から描いた物語である。同島の日本軍…

藤本和子『塩を食う女たち 聞書・北米の黒人女性』

結婚して四年たって、子どもが生まれた。女の子。それから三年して、男の子が。夫は子どもはほしくない、といったけど。そして三度目の妊娠。これは夫もあたしも計画していなかったもの。夫はひどく動揺して中絶しろといった。あたしはその子を産まない理由…