しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

2017-01-01から1年間の記事一覧

研究のことを話しているときがいちばん心地よい。

研究のことを話しているときがいちばん心地よい。自分の研究のことを話しているときも、他人の研究のことを聞いているときも。研究のことをきちんとじっくり話したあとは、独特の澄んだかんじが残る。 さしあたりそれが、じぶんが大学に居残っている理由だと…

若手女性研究者/芸術作家の紹介記事を台無しにする最後のオッサン的一文

産経新聞による東大特任准教授の紹介記事を眺めていて。 今後の意気込みについて「バイオテクノロジーだったり、人工知能(AI)だったり、技術が進むなかで、価値観がどんどん変わっていく可能性がある。ビジネスだからとどんどん出していくのではなくて、…

ワシのかんがえる理想の『白雪姫』

王子様のキスで目を覚ました白雪姫は、王子のための後宮に連れてゆかれました。 そこには目もくらむような美少女がどっさり。白雪姫がインタビューしてみると、みな自分とおなじ経緯で王都へ連れてこられたのでした。ある日あやしいお婆さんに訪問販売のりん…

『ネト充のススメ』のリリィさんがかわいい

タイトルで全てを言い切ってしまった(ブログ執筆の理想)。 『ネト充のススメ』は30歳プロニートの主人公(盛岡森子)が、ネトゲを通じて運命の?出会いを果たす物語である。「リリィさん」は彼女がゲーム内で出会う女性キャラ。 このリリィさんが非常にか…

能とサバイバー(『多田富雄コレクション4 死者との対話』より)

私たち観客は、僧といっしょにこうした「あのひとたち」に出会い、彼らの喜び、嘆き、さらにもっと奥深い情念や、解決できない悩みに参加する。(…) 私たちがわざわざ能楽堂に会いに行く「あのひとたち」とは、どんなひとたちだろうか。 それはおおざっぱに…

研究者であることと、当事者であること

標題のことについて、さいきん、立て続けに話を聞くことがあった。 とくに社会科学系の研究者は、自分の研究フィールドと、自分自身の「出自」「立場」が重なってしまう、ということがある。 たとえば、自身も障害者である人が障害者の雇用について研究する…

後悔について

あんなことをしなければよかった、言わなければよかった、と後悔することがよくある。後悔したくなければ失敗しなければいいのだけれど、根がアホなので失敗を繰り返す。そして後悔する。後悔は苦痛を伴う。ところがそれと同時に、心のどこかで、「自分がし…

神戸港150周年「世界一のクリスマスツリー」プロジェクトへの疑問

主にtogetter経由で知ったのだけれど、「世界一のクリスマスツリー」というプロジェクトが富山と神戸で進んでいるらしい。 詳細は上記、神戸新聞の記事とtogetterまとめで把握されたい。プラントハンターの西畠某氏が「世界一のクリスマスツリー」プロジェク…

本があることの至福(『語るボルヘス』)

「私は今でも目が見えるようなふりをして、本を買い込み、家じゅうを本で埋め尽くしています。先だっても、1966年版のブロックハウスの百科事典を贈り物にいただきました。家の中にその百科事典のあることがはっきりと感じとれ、私は一種の至福感にひた…

頭を下げるということ。

さいきん、頭を下げること、を覚えた。 そう大げさなことがあったわけではない。お世話になったひと、なっているひと、これからお世話になるかもしれないひと。そのようなひとに対して、感謝をこめて、素直に、強引なかんじを帯びず、ただ頭を深く下げて一礼…

被害者をだまらせる技法・再 山口放送「奥底の悲しみ」演出・クレジット非表示問題

若手女性研究者による戦時性暴力の論文が、山口放送のドキュメンタリー番組に利用されたものの、研究者の氏名が番組にクレジットされず、さらに番組の独自取材であるかのように演出されている、という問題。研究者(山本氏)は番組ディレクターに著者名/論…

FF7シナリオ再考: ジェノバの存在がどうしても浮く

以下は妄想です。 結論を先に書いておくと、FF7のシナリオは(1)「〈古代種/ライフストリーム/エアリス〉対〈魔晄/環境破壊/神羅〉の戦い」を基盤とした設定・シナリオ原案と、(2)「神羅カンパニーのエースだったセフィロスが自分の出自を求めてジ…

声について

声とはなんだろうか、とおもう。 心地よい声、耳障りな声、というものがある。 耳障りな、好きではないタイプの声だからといって、その声の持ち主のことが常にきらいになるということはない。好きな声の持ち主のことがそのままで大好きになるとは限らないけ…

「地毛の色」が「本当の色」なのではない

大阪の府立高校の生徒が、もともと茶色い頭髪であったのを学校に黒染めを強要され、登校を著しく制限されたとして、府を相手取って提訴した。…というニュースを読んだ。 授業への出席や修学旅行への参加も禁止されていたということで、学校の対応は常軌を逸…

木が折れる

先日の台風で大学そばの林の木が根本から倒れ、小道を塞いでいる。あの晩、わたしは投票のためにいったん実家に戻り、ずぶ濡れになりながらその小道を通っていた。その後に倒れたらしい。ちょっと、あぶないところだった。 大学構内では、共通教育棟の中庭の…

被害者をだまらせる技法 ―伊藤詩織『ブラックボックス』感想

伊藤詩織『ブラックボックス』(文藝春秋、2017年)を買って読んだ。ジャーナリストとしての就職を望んでいた著者が、TBSワシントン支局長の山口敬之氏から性的暴行を受け、同氏が不起訴処分となったことから検察審査会に申し立てを行った。その申し立ての報…

生態系っぽい場所に幸福を感じる。

生態系っぽい場所に幸福をかんじる。 道を歩いていてたまたま見つけたぽっかりとした空き地、たとえばモノレールの高架の下の空間に、草がしげっている。草は種類によって背丈が異なり、もわもわもさもさとしている。葉のあいだや土のおもて、土のなかに虫が…

蜘蛛の巣が撮れない

面白いものを見つけたらiPhoneのカメラで写真を撮る。 朝のキャンパスの坂道にいたカメとか、部屋にいたバッタとか、マンションの階段にいたトカゲとか、かたつむりとか、たい焼きとか、弟の部屋で飼われている水棲のカメとか。 今朝は通学路にたいそう立派…

伊能図を正確だと直観できてしまうことのふしぎさ

伊能忠敬の地図が、不思議だなとおもう。 不思議なのは、あれを見たひとのおそらく全員が、「この地図が本物の地図なのだ」と確信してしまうということ。 それは江戸時代にあの伊能図を見た幕府の役人もそうだっただろうし、現代の人間もそう感じる。それ以…

文系院生、工学型の「発表12分・質疑応答3分」学会発表を初めて体験する

一昨日と昨日、災害復興学会に行って発表をさせてもらった。 場所は兵庫県立大学の旧神戸商科大学キャンパス。初めて訪れたが、こじんまりしていて、建物と木々が美しくて、いいところだなぁと感じた。ここで学ぶ学生は自然と気持ちが落ち着いてくるだろうな…

感極まって何も言えずにただ深々とお辞儀をするというドラマ演出のクソさ

実家に帰るとテレビドラマを見ることになる。主人公が、周囲のひとびとの温かい拍手や助けをわーっと寄せられて 感極まって何も言えずにただ深々とお辞儀をする という演出がやたらと多い。 クソかって思う。そもそもそんなタイミングでの無言の「お辞儀」見…

国立国会図書館のデジタル化資料送信サービスを使ってみた

学内に無い論文の複写取り寄せを大学付属図書館に依頼したら、「国立国会図書館デジタル化資料送信サービス」で閲覧できるから取り寄せ依頼はキャンセルさせてもらうねと返信をいただいた。 図書館向けデジタル化資料送信サービス|国立国会図書館―National …

死の直前の苦痛に意味はあるか

わたしが快楽殺人鬼に捕まったとする。かれはわたしを手術台に縛り付け、数時間、わたしを拷問する。そして最大の身体的・精神的苦痛を最後の5分間に与えたのち、わたしを絶命させたとする。 もちろんそんなことは、わたしであれ他の誰であれ、体験しないに…

「聞こえること」の解像度(4) モノノケの声

聞こえること。何かが聞こえてくること。そのことを少しずつ考えている。 昨日の夜、台風の暴風圏が差し掛かっていただろうころに、用事があって大学のキャンパスにいた。吹き付けてくる風に芯があって、建物の壁や樹の隙間を強引に押し通っている。どうどう…

NHKに引っ越しを把握されてたのがすごく気持ち悪い。

陸風のなか、NHKの受信契約をお願いしますという方が来た。 テレビ置いてないんですが、と答えるとすぐに帰ってしまわれた。無駄足を踏ませてしまって申し訳ない気がする。一人暮らしを始めてもう8年になるけれど、ずっとテレビは置いていない。その他の受…

「聞こえること」の解像度(3)意味の広がりとまとまり

聞こえるということを何度か考えなおしてた。 ひとつの音にはひとつの音源がかならず対応する、と以前書いた。 「聞こえること」の解像度 - しずかなアンテナ 「聞こえること」の解像度(2) 音と時間 - しずかなアンテナ ひとつの音源には、それがひとつの…

「聞こえること」の解像度(2) 音と時間

先日、音について考えていた。(「聞こえること」の解像度 - しずかなアンテナ)) ひとつの音にはひとつの音源が対応する、といったことを書いた。けれども、そのあともういちど考えてみると、「ひとつの音」とはなんだろう、ということが意外とわからない…

阪神大震災当日の二階俊博議員の動き

二階俊博衆院議員(現自民党幹事長、当時新進党所属)が、1995年1月17日の阪神大震災発生当日にどのように移動していたか。たまたま当人の手記(二階俊博『日本の危機管理を問う 阪神大震災の現場から』プレジデント社、1995年)をちらっと読んだのだけれど…

犬はカメラ目線ができない

実家では犬(黒ラブラドール、オス)を飼っている。この犬の写真を撮ろうとおもってiPhoneを向ける。すると、直前まではわたしの顔を見ていたのに、ぷいと脇へ目をそらしてしまう。人間なら「カメラ目線」ということをしてくれるが、犬にはそれが難しいらし…

「聞こえること」の解像度

自宅のすぐ近くで新築工事が始まっている。足場を組むための槌音や、ホッチキスの親玉みたいなのを打ち込む道具(あれ、なんて呼ぶんだろう)の作動音が聞こえてくる。涼しくなったので窓を開けていたらトテカントテカンガッガッガッと作業の音が聞こえてく…