しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

乳母がいて女官は死ぬ

高校のときだったと思うが、国語の古典の授業中にこんなことを先生に言われたのを覚えている。曰く、「女のひとって授乳期間中は月経が止まるのね、だからその間は妊娠しない。でも赤ちゃんを乳母に預けたら授乳しなくなるから月経が再開して、セックスしたらまた妊娠する。すると体力回復せずに妊娠をくり返すことになって、栄養状態が悪くなって死んでしまう」。

どのような教材の授業中だったか、どのような文脈であったかまでは覚えていない。おそらく平安期の宮中の女官が貴族の子を産むけれど早死にして…という流れで、その背景を説明したのだろう。

 

この話を覚えているのは、ひとつには教室で生徒がだれもニヤニヤしたり茶化したりしなかったことだ。それは先生の側が、無理な「構え」をつくらず普通にストレートに話したからで、生徒もそれをそのまま受け止めたということなのだろう。女性の先生で、30代ぐらいだったはずである。生徒を大人として扱ってくれているという感覚があったのを覚えている。

もうひとつは、平安時代の宮中の女官という特殊な立場ではあるけれど、女性の生命や存在が大事にされていない、しかもそれが男性貴族と女性、乳母という構造によって強いられていることに強い印象を受けたからだった。ひどく非対称的だと感じた。(当時は「構造的」とか「非対称的」といった語で理解していたわけではないけれど、いまの自分の語彙を当時の自分に持ち込んで当時の理解を言語化すると、こういう言い方になる)

 

いま思い返すと、小中高12年間において、この先生のこの一言はわたしが唯一受けた性教育だった。そしてまた、12年間において唯一受けたジェンダー/フェミニズムの教育だったとおもう。