しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

情報をよこせ

 アメリカではどうか知らないが、神戸で悩んだ一つは「情報をよこせ」のたえまない要求であった。日本のヒエラルキーでは、ボトムアップ型の情報伝達において「情報が自分をバイパスすること」は自分の権力を無視され耐えがたいことなのであろう。情報は各レベルで満足ゆくまで再読され、訂正、補足あるいは削除されて一つ上に挙げられる。

 逆にトップダウン型では、即時に伝達実施されることを求めてくる。非常事態では、自分が唯一の上位機関であると思っているところが複数生じるのが普通であって、そこからの指示が殺到する。これをどう捌くかに忙殺される。高い(と本人が思っている)権力者の視察ほど形式的で短時間で、とにかく中央からの統制がとれていることの再確認であって、現地の地図を持っている視察団などはみられなかった。ある災害では、中央が統制がとれていると満足している一方で、現地では殴り合いが起こったという風評がある。

『災害時のこころのケア サイコロジカル・ファーストエイド 実施の手引き』中井久夫による序文。