しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

「非常勤講師」の経歴詐称

 この事件、「盛る」のは良くないのだけれども、「盛ってしまう」感覚もややわからないでもない。なので、「経歴詐称」という表現はちょっと過剰かなともおもう。

 

 「非常勤講師」の経歴を持つと自称しうるパターンはおおむね以下のものがある。

1)ある学期を通して一つの授業コマを全て受け持つ。シラバス執筆、授業(2学期制なら全15回)、試験(レポート、筆記試験、実技試験等)、成績評価、成績評価への異議申し立て対応を一貫して行う。

2)ある学期の一つの授業コマを、複数の講師で分担して受け持つ。シラバス執筆など一連の作業は1)と同じだが、複数講師が分担する。もしくはメインの講師を決めておく。

3)別の先生が受け持っている一つの授業コマの、1回か2回の講義をスポット的に担当する。シラバス執筆や成績評価等は行わないが、その担当回の授業準備は自分が責任を負う。

4)別の先生が受け持っている一つの授業コマの中の1回に、ゲストスピーカーとして招聘され話をする。

 

 このうち、もっとも狭く捉えるなら、「非常勤講師」の経歴として履歴書等に書けるのは1)のみだろう。この場合、「豆腐大学国際麻婆マネジメント学科「豆腐概論1」非常勤講師(2018-2021、前期開講)」と記載すればまず誤解は無い。

 個人的な感覚としては、シラバス執筆に参加していれば2)も非常勤講師の経歴として認めるべきだとおもう。ただ、履歴書に正確に記載するのはやや面倒だ。「「豆腐概論1」非常勤講師(2018-2021、前期開講、内4回分)」などと書くことになるだろうか。年によって分担担当の回数や時期が変わる可能性もあり、履歴書を受け取る側もわかりづらいかもしれない。あまり煩雑になるのもアレだから1)と同じように書いちゃえという方向に傾きそうだ。(Researchmapでは書き分けできるのだろうか?)

 3)は微妙なところで、機能上は部分的に非常勤講師なのだけれど、社会的な経歴としては「非常勤講師」を「やってきました」とはみなしがたい。大学から依頼状は来るが契約書は交わさないはず。おそらくシラバス執筆と最終的な成績評価に責任を持っているか否かで線引きが可能。このあたり履歴書には誤解の無いように書くべきで、「「豆腐概論1」非常勤講師、2022年10月2日」と書けば良いとおもう。スポット担当なのに日付指定が無かったら、個人的には「あかんやろ」判定。

 4)と3)の違いはどこにあるのか。これも微妙なのだけれど、その授業の正式な担当講師が授業時間中にどこまでコミットしているか、によるとおもう。授業開始時に担当講師が最初に話を切り出し、ゲストスピーカーの紹介や前フリの話をして、授業後の質疑応答等の司会やトラブル対応も行うというのが一般的ではなかろうか。この場合、担当講師は授業の「枠組み」を依然として引き受けているわけで、ゲストスピーカーはあくまでその内側にいる。

 今回の議員の事例は、この4)の経験を「非常勤講師」として記載していたものらしい。社会通念上、非常勤講師と聞いて想像するのはほぼ1)だろう。実際は4)なのに1)を想起させる「豆腐大学 非常勤講師」という記載は余りにミスリーディング。せめて日付記載があれば…。

 ただ、1から4まである程度グラデーションがある(その中での明確な線引きは可能)ので、ゼロから経歴詐称をしたのではなく、ちょっとあかんかんじに「盛って」しまったのだろうという理解をした。盛るのは良くないけれど、ちょっと盛ってしまいやすい背景があるねという話でした。