しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

2019-01-01から1年間の記事一覧

意識と快苦

欲しいものが手に入らなかったり、愛するひとと別れなければならなかったり、憎いやつに会わなければならないとき、苦痛の感情を覚える。もっと単純に、暑かったりひもじかったり、ケガや病気で痛みを覚えるとき、苦痛の感情を覚える。反対に、身体の欲を満…

月給というもの

月給の額が決まりました、とA4の紙をいただいた。 恥ずかしながら、この年齢になって初めて月給というものを受け取ることになった。なんだかむず痒いかんじがある。 紙にはX級YY号給、Z万Z千円と記されている。 なぜX級YY号給なのかはわからない。たぶん聞け…

家と家族: ゲーム・オブ・スローンズSeason7におけるLF誅殺

エントリ名自体がネタバレになってしまって申し訳ない。以下の内容は、Season7を未視聴の方にとってはストレートなネタバレになっている。 「ゲーム・オブ・スローンズ Season7の個人的に好きなシーン」というエントリを書こうとしていたのだけれど、それよ…

わたしはいつ「かめはめ波」を出すことをやめたか

この問いはかなりはっきりと答えを出すことができて、自分の場合、小学2年生のどこかである。 なぜ2年生と断言できるかというと、この学年のときに引っ越したのだけれど、後述の「かめはめ波打ち切り」を意識したのが引っ越し先の新居のトイレの中でのこと…

時間が飛ぶ

いろいろあって、働き始めている。 職場では会議やいろんな新しいお仕事や研究計画やらがわーっと降りてくる。メールと名刺がゆきかう。そして時間がまたたくまにすぎてゆく。ほんとうに、何度かまぶたをまたたいている間に、というかんじ。 朝8時すぎに駅の…

「迷惑な空襲」/『この世界の片隅に』を見ながら

おばあちゃんに一度だけ空襲のことを聞いたことがある。聞いたといってもそう詳しい話をされたのではなく、いったいなぜその話題になったのかもよく覚えていないのだけれど、「火なんかすごい熱くて、ガラスも溶けてね」と言った。そして「もうあんな迷惑な…

記憶の丸み: 西川祐子『古都の占領』(2017)

以前お世話になっていた先生に今の自分の研究(災害の記憶に関すること)を話したとき紹介された本を読み始めている。 古都の占領: 生活史からみる京都 1945‐1952 作者: 西川祐子 出版社/メーカー: 平凡社 発売日: 2017/08/28 メディア: 単行本 この商品を含…

支援と「別世界感」(『セックスワーク・スタディーズ』)

セックスワーク・スタディーズ 作者: SWASH 出版社/メーカー: 日本評論社 発売日: 2018/09/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 指導教員が勧めていたので読んでみた。あ、これは読んでおいてよかったなと思った。同じテーマにくくることはでき…

無かったことにはならぬであろうか。全てのことが霧消し、元通りにならないだろうか。図書館の古い本棚の裏の壁を手で探っていると錆びついた取っ手にゆきあたり、それをゆっくり回すと異次元の歯車が逆回転しはじめ、時間がすべて巻き戻り、その間に起きた…

石榴を食べる

おばあちゃんに会いに行った。虫眼鏡を盗られた、ハンコを盗られた、としきりに訴える。盗られないように大事に隠すのだという。しかし隠したことを忘れてしまう。見つからない。おじいちゃんが使っていた大事な虫眼鏡なのに。なぜ無いんだろう。あんな大き…

引っ越す

引っ越すことになった。というか、いま引っ越しの最中である。 溜め込んだ本や資料を詰めるとそれだけで20箱近くになり、これはトラックに積みきれませんということで後日別便を用いることになった。この5年、震災関係の本であればマケプレで片っ端から安く…

大学に5年いて腹がたったこと

博士前期・後期課程で計5年間、大阪大学にいた。 大学で過ごしていてとても腹がたったことが2度あった。 とくに面白い話ではないけれど、そのうちの1つを、大学を出る前にここに書いておくことにする。 それは豊中キャンパスのドンドンという今はなくなっ…

臨床哲学と「方法」

臨床哲学に固有の方法はあるのかと問われることがある。これはおろそかにできない問いだけれど、これまで自分はうまく答えることができなかった。いま完全な答えを出すのではないけれど、その手がかりを考えてみようとおもう。 なおここで言う臨床哲学は、さ…

からだが触る

今はもう昔のことになってしまったけれど、学部生のとき、全盲の学生と共に授業に出て板書内容をノートPCに打ち込んでゆくという有償ボランティアをしたことがあった。授業後、その学生が白杖で足元を探りながら教壇上の老教授のもとに近づいた。そのとき、…

豚肉の塩漬けをつくる

豚の塩漬けをつくった。 以下のサイトの工程を完全にコピーした。そしたらできた。 2月5日。まず最初に岩塩をすりこんだ状態。ここから冷蔵庫へ。 2月8日。3日経ったのでいちど水洗いして塩を抜く。(写真は水洗いする直前) 全体的に少し縮んでいるが、まだ…

長生きケレンスキー

ケレンスキーというひとはロシア革命後に政権を担い、その後レーニンに負けて亡命した。ボリシェヴィキからの視点ではかれはここで表舞台から退場するのでその後の消息をわたしは考えたことがなかったのだけれど、先日Wikipediaを見ていたら1970年まで存命だ…

五つ玉のそろばん

おばあちゃんの部屋を整理していたら、すごいものが出てきた。 大きな算盤。玉が下側に5つ付いている。自分が小学校で習ったのは4つバージョンだった。子どものころにも同じ算盤を手にとった記憶がある。 裏の書き込みを見てびっくりする。 「明治四十年十…

90年代カンボジアPTSD調査の失敗(新福尚隆「阪神大震災 私の体験と心のケア」)

被災者の心の問題の調査という点では私がWHO在籍中に経験したカンボジアにおけるPTSDの調査団のことが頭に浮かぶ。1991年以降、カンボジアにおいて外国からの支援が始まるようになったとき、急速に増大した申込みの一つはカンボジアにおけるPTSDの調査、研究…

死と死に方

自分自身の「死」という出来事が何であるのかを考えようとするが、いまひとつ掴みきれない。将来絶対確実に起きるはずなのだけれど、あまりリアルなものとして考えることができない。「死」を理念や概念として把握しようとするのがそもそもの間違いなのだろ…

災禍の定義と「支援」(アンヌ・ブッシィ「フクシマの災害と災禍に対する社会の反応」(2015))

災禍の経験を通して、また、半世紀以上の多岐にわたる研究により、「災禍」は時代とともに様々な定義を与えられるようになった。(…)定義にこだわりすぎるのは無意味で無責任なことに思えるかもしれないが、フクシマの被害者のように、常に支援が必要な被災…

小此木啓吾「フロイト対フェレンツィの流れ」(2000)

小此木啓吾「フロイト対フェレンツィの流れ」『精神分析研究』44(1), 28-36, 2000. ・禁欲規則、分析の隠れ身、中立性、受け身性、医師としての分別を基本とするフロイト的態度。他方、人間的な愛情と温かい交流こそ治療の根本であるとするフェレンツィ的態…

さいきん聞こえたもの

「もうちょっと遊んどけ、やってー!」 3年前の秋ごろの夕方、神戸市長田区の公園のまえで。 自転車に乗った小学生が、隣の友人に言う。携帯電話で親に連絡をしていたらしい。たぶん、まだ家に帰ってくるな、公園でもうちょっと遊んでいなさい、と親が言った…

読書の声のスピード感

本を読んでいるとき、頭の中で「音声」を再生するように読むのか、それともそうした音声抜きに読むのかという違いがある。これは個人差があるらしい。 わたしの場合は、読書体験の8割ほどは前者の「音声」型だが、読んでいるうちにいつのまにか音声が抜けて…

「ポスト震災○○年」が不可視化するもの(稲津秀樹「被災地はどこへ消えたのか? 「ポスト震災20年における震災映画の想像力」2017年)

稲津秀樹「被災地はどこへ消えたのか? 「ポスト震災20年における震災映画の想像力」『新社会学研究』2, 2017, 46-56. つまり、「ポスト震災○○年」という言葉でもって震災の時空間が方向付けられる限り、私たちの想像力に1995年1月17日に現出した被災地のリ…

「見たくない現実を暴く力」(本当に見たくないものは暴かないでおく力)を専有しているのは男性である

全体を通じて、なんだか決定的にズレているなぁとおもう。 では今回の広告が、示そうとした「向き合わなければならないもの」とはなにか。それは、「絆・連帯というもののは時に抑圧的に働くことがある」という事実です。 これは、間違っているとおもう。 問…

分別と「つく」

分別という言葉は日常語の体系の中に組み込まれていて、いろいろな意味を含んでいるのに、この言葉が日本の哲学や倫理学のなかで「実践理性」などの用語ほどには確かな位置を与えられていないことは残念なことだとおもう。 そこで「分別」について少しだけ考…

回復と下山(中井久夫『徴候・記憶・外傷』みすず書房、2004年)

急性期から回復していくのを、私は山から下りるのにたとえたことがあります。回復は山から下りるときの感じですね。私もちょっと山登りをしていたことがありますけれども、回復の一つの特徴は目標がはっきりしないことです。発病のときに目標があるかという…

「碑」の傷つきやすさ

震災の鎮魂碑、盗難か 六甲山頂付近建立毎日新聞2019年1月31日 22時05分(最終更新 1月31日 22時11分) 兵庫県勤労者山岳連盟(兵庫労山)は31日、神戸市東灘区の六甲山頂付近に建てた阪神・東日本大震災犠牲者の鎮魂碑がなくなったと発表した。碑は過去にも被…

これから読む本

読んだ本の紹介ではなく、これから読む本のリストをつくってみる。 博論を書き込んでいる間、がくんと読書量が落ちた。そのこと自体はやむを得ないのだけれど、読まないまま書いていると、身体の中に貯蔵していた活字(?)の備蓄(?)をひたすら放出してい…

山澤学「自然災害の記録と社会 『信州浅間山焼記』を事例に」(2016)

山澤学「自然災害の記録と社会 『信州浅間山焼記』を事例に」、伊藤純郎・山澤学編著『破壊と再生の歴史・人類学 自然・災害・戦争の記憶から学ぶ』筑波大学出版会、2016年、27-47頁。 (内容のごく大まかなまとめ) 『信州浅間山焼記』は、天明3年(1783年…