しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

兵庫県庁の抜き打ち防災訓練

 大震災から2周年目にあたる平成9年1月14日、兵庫県は初めての完全抜き打ちの防災訓練をしました。(中略)

 この訓練では、訓練の関係者、関係機関には、「1月10日から30日までの間で姫路市内を訓練会場として抜き打ち訓練を実施する」ことだけを事前に伝え、それ以外のことは知らせないようにしました。(中略)

 訓練担当者3人には別室での作業を徹底させ、防災局職員にも分からないようにするとともに、訓練会場が予め分かると実働部隊の事前調査や予行演習が実施される可能性があるため、会場確保には同市内の大体育館をダミーで借り、あたかもそこで行うように見せかけ、実際は、同じ市内の取り壊し直前の県営住宅を会場としました。県営住宅には被災者役のボランティアを閉じ込めて、電動カッターなどを使用して救助隊が救出するよう仕組みました。(中略)

 緊張が続くなか、訓練当日を迎えました。

 その結果、大混乱が発生しました。訓練とはいえ2年前の大震災の際の初動と同様の混乱が生じたのです。(中略)二度とあのような混乱は生じないと確信しての体制検証のための訓練でした。それなのに大混乱が生じてしまったのです。

 訓練会場では、最初に到着した部隊の車両が狭い道路を塞ぎ後続の部隊が進めなくなり、一部の部隊は地理不案内で会場を通り過ぎ、相当遅れて会場に到着する有様でした。また、建物内の被災者役のボランティアが、迫真の演技で救助隊へいろいろと注文をする場面もあり、救助隊員が狼狽えることもありました。

 現場が大混乱ですから市役所や県庁に被害情報が届くはずがありません。こともあろうに、姫路市役所と県庁を結んでいたフェニックス防災情報システムの市役所端末がダウンし、県庁との情報連携が取れなくなるというアクシデントまで発生してしまいました。(中略)

 しかし、この訓練は大成功であったと今でも思っています。大震災直後から一心不乱に再構築してきた兵庫の防災体制の検証ができたからです。

(斎藤富雄『「防災・危機管理」実践の勘どころ』晃洋書房、2020年、pp.67-70)

 

著者は兵庫県の初代防災監。兵庫県は全国で初めて防災監を置いた自治体なので、日本で最初の防災監でもある。ダミーの会場を予約というのがスゴイ。ロンメルみたいなひとだとおもう。

組織が本気で危機管理に取り組んでいるか否かは、抜き打ち訓練を避けていないかどうかで見分けられると思う。全国の自治体でも丸ごとの抜き打ち訓練をしている事例はやはり少ない。

ただし抜き打ち訓練をいたずらに連打しても意味は薄い。訓練の目的を定めなければならない。抜き打ち自体が目的になっては意味がない。著者が「この訓練は大成功であったと今でも思っています」と述べているのも、訓練の目的をはっきりさせており、その目的に対して最良の手段が「抜き打ち」だったということ。 

「防災・危機管理」実践の勘どころ

「防災・危機管理」実践の勘どころ

  • 作者:齋藤 富雄
  • 発売日: 2020/12/20
  • メディア: 単行本