しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

ワクチン接種計画崩壊の原因を推測する

昨日あたりから、各市町村の接種計画が崩れ始めているようだ。

神戸市では59才以下の第1回接種予約を完全延期し、受付済みの予約分もキャンセルするという。手元に届いている接種券では、神戸市の30代は7/15から予約開始と示されているが、これも当分あとになるだろう。

www.kobe-np.co.jp

 

厚生省は6月1日付でワクチン供給量が大幅減することを知らせている。他方で自治体は7月に入って接種計画を大きく崩さざるを得ない状態に陥っている。このチグハグさはどこに起因するのだろうか。

 

国の側では大元の供給量があらかじめ決まっているのに、自治体の側では需要量(希望量)をベースにして計画を立てている、というところに崩壊の要因があるのではないか。

 

まず、理想的なワクチン接種計画を夢想してみよう。

  1. 製薬会社からは毎週月曜日に決まった数(たとえば1000万本)が成田空港に届く。
  2. 厚労省はその1000万本を都道府県に人口比で配分する。たとえば東京都と大阪府には100万本ずつ、兵庫県には40万本…というように。
  3. 都道府県には上記の配分数が火曜日に届く。そこで兵庫県の担当者は、手元の40万本のうち、さらに市町村に人口比によって分配する。たとえば神戸市には10万本、西宮市には5万本…というように。(政令市は県と別枠かもしれないが、ここは単純に考えることにする。また、都道府県が管轄する大規模接種会場はここでは考えないものとする)
  4. そこで神戸市には毎週水曜日に10万本のワクチンが届く。それを前提として、神戸市の担当者は、市内の大規模接種会場や医師会等と、具体的な調整にはいる。
  5. 上記の手順は配送トラブルが無い限り粛々と進む。したがって、神戸市の担当者は「毎週水曜日に10万本のワクチンが届く」ことを前提として、市民の接種計画を立てることができる。年代ごとの人口は大きく動かないので、「7月第1週は50代、第2週は40代、第3週は30代…」というように、予約と接種の案内を市民に知らせることができる。

この計画はあくまで理想モデルで、現実は当然こんなに簡単にゆかないだろう。特に製薬会社の納入数が安定していることが絶対の前提になる。また、国から各地に降りてゆく段階で各種のラグが生じる。

しかし、住民に接種券を配り、予約開始時期を知らせるためには、どうしてもある程度の仕入れ見込みが必要だろう。とすれば、仕入れ見込みは結局上流から設定するしかない。仕入れ量をやや低く見積もったうえで、上流からの工程の各所でバッファーを設けて増減を吸収することになるだろう。

 

繰り返して言うが、このモデルはあくまで理想のもの、机上の空論である。難題であるだろう製薬会社の違いについても捨象している。国や自治体の計画担当者が見れば、そんな簡単に行くなら苦労しないよ、と言われるだろう。こうすれば良いのになぜしないのか、という主張ではない。

ただ、おおまかにはこの立て付けであれば、今回のような計画崩壊は生じなかったのでは、とだけ思う。7月以降の大幅減は1ヶ月前にわかっているのだから、それを前提とした計画が立てられる。

 

実態はどうなっているのか。自治体側の「希望量」と供給量の調整が付いていないように思う。

  1. 市町村は接種会場を確保し、地元医師会等と協議して、ワクチンの接種能力の最大値を設定する
  2. 市町村は人口と接種能力を検討した上で、「うちはこの期間内に毎週XX万本ずつ届けてくれたら、XX週以内に人口のXX割にワクチン接種完了します」と都道府県に申告する。
  3. 都道府県は市町村の希望量を集計し、「毎週XX万本ずつ届けてくれたら、我が県ではXX週以内に人口のXX割のワクチン接種が完了します」と厚生省に申告する。
  4. 厚労省には最終的に毎週の供給量を上回る希望量が上がってくる。各自治体でがんばって接種能力を最大化したので当然である。
  5. しかし供給量自体は変わらないので、厚生省は改めて各都道府県に人口比で「実際の配分数」を伝える。
  6. 他方、市町村の側は最大化したワクチン接種能力を前提とした接種計画を立て、それを前提として住民に接種予約の案内を出している
  7. 結果、供給量と希望量のズレが放置されたまま国と自治体でオペレーションが進み、接種能力を満たすだけの実弾が届かず計画が破綻する。

推測でしかないが、おおざっぱにはこういう流れになってしまっているのではなかろうか。要するに、供給量が限られている(というか縮小する)のに、他方で接種能力の拡大をブレーキ無く推し進めたということだ。90日間で7000万本のワクチンしかないのに、一日100万本の接種能力を目指している。

接種能力に基づく希望量とワクチン供給量の調整を誰が付けているのだろうか? 実際のところ、市町村から都道府県や厚労省に「うちは毎日X千本打てる体勢ととのえて計画も走り出してるけど、ほんとうにその分だけ届く…んですよね?」みたいな問い合わせは絶対に来ていたはずである。それに対して「やっぱり供給量には限界があるから、接種能力は拡大してほしいけど計画は供給量見込みベースでお願いします」と返していれば、計画の破綻は無かったはずで。ここまで派手に崩れたのは、やはり誰かが空手形を発行したからだろう。

 

 

…というようなことは、そもそもエライ人や賢い人たちはだいたいわかっているし、わかっていたのだろうとおもう。このエントリも所詮は事後諸葛亮である。

根本的な原因はどこにあったのだろうか。最大瞬間風速的な接種能力の拡大そのものが目的化して、1年単位での計画が無かった、ということだろうか。だとしたら、なぜその体勢でどんどん暴走したのだろうか。