しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

鷲尾和彦写真集『Station』夕書房、2020年

オーストリア・ウィーン駅の難民の様子を捉えた写真集。

著者あとがきによると、駅にたまたま滞在した数時間のうちに難民の列車にゆきあい、3時間ほどで撮ったものだという。

 

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撮られたひとびとの表情が多様であることに少し意外の感をもつ。

疲れ切った顔、不安そうな顔だけではなくて、次の場所への意志や、すっきりした楽観のようなものを感じさせる表情もある。帰省ラッシュ中の日本人家族の表情が意外と近いかもしれない。

とはいえ、こわばった顔は写真のあちこちにある。

 

警察官の表情は、難民の移動がかれらの業務にとって日常であることを思わせる。

故国を去って新しい日常を求めるひとびとの流れがあり、その流れのなかのひとりずつは一度きり・一回きりのそのときの列車に乗り、その流れを次から次へと整然と管理する警察官やボランティアの日常がある。いろいろなものがつぎつぎと壊れ、崩れながら、その場面が一箇所に集約されることで瞬間瞬間に新しいかたちをつくっている。そうしたフラッシュ的なかたちを自分のあらたな人生のかたちへ繋げられた幸運のひとびともいれば、死んだり殺されたりするひともいる。そうした個々の出来事を押し流すように、また翌日には新たな流れが押し寄せる。(わたしは? なんの場面にも接していない)

 

この本についてもうひとつ言うと、写真の面がざらざらしているところがあるのが好き。

 

ここで買った。