しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

粘る水

「国内で毎日500名が新型肺炎で亡くなるという状況が2週間後から始まる」ということを既定の事実として仕事をすること。もちろん、本当にそうなるかどうか、2週間後なのかどうか、わからない。わからないので、既定の事実だとする。そして仕事をする。

 

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 今回の災厄は水害に似ている。ただし水の粘性が10倍とか100倍くらいの世界での水害である。豪雨が降り、地面に叩きつけられた「水」が、ゆっくりゆっくりと水路をつたり、川へ集まってゆく。そして堤防を打ち壊し、乗り越え、床上浸水をひろげる。被災者が避難所へ逃げ、あるいは逃げ遅れ、避難所と病院がパンクし、その影響が周縁へ連鎖的に波及してゆく。また、粘る水は一箇所で堤防を決壊させるだけでなく、溜池や下水設備や砂防ダムにもダメージを及ぼし、そこでも人的被害をもたらす。これを連滝災害(カスケーディング・ディザスター)という。

 本物の水害とエピデミックの違いは、起点から終点への速度だ。水は重力に沿って山から海へと流れ落ちる。降雨から浸水まではおおむね24時間前後の出来事である。感染症拡大はもっと時間がゆっくりだけれど、被害拡大の機構そのものは意外と似ているように思う。つまり水がゆっくりゆっくりと流れ、浸水被害を起こす「水害」なのだ。