しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

子羊の掴まえ方(河合隼雄編『心理療法対話』より)

「 長谷川 西洋との違いということでは、私自身、面白い経験があります。以前、ヒツジの研究をスコットランドの沖合の無人島でやっていたのですが、そこでは、子ヒツジの成長を見るために一週間おきに捕まえて体重を測るんです。その捕まえるのがなかなか難しいのですが、わたしはそこで独自の方法を考案して、すごくよく捕まえられるようになりました。ところが、イギリス人は誰もこの方法ができなかったのです。

 その方法というのは、ヒツジはみんなよく昼寝をするんですが、一本も木がない草原なので全部見えるんです。それでよく見ていて、ぐっすり眠っている親子のところに真後ろから一歩一歩近づいて行って、ちょっとでも母親が起きてこっちを向いたらピタっと止まって知らん顔をして、向こうが安心して、寝静まると(耳が垂れるとわかるのですが)、またちょこちょこと近づいて、のこり二メートルか三メートルぐらいになったところでポーンと飛びかかって、子ヒツジをお腹のところに抱え込むんです。一匹捕まえるのに三◯分くらいかかりますけれども、この方法はわたしが編み出して、結局二週間で、合計六九匹捕まえました。ところが、そこで何年も研究をしているイギリス人はこの方法をまず思いつかなかったんです。彼らがやっていたことといったら、ラグビーのタックル方式で、とにかく子ヒツジを見つけたらダァーッと走って、足を捕まえるか、でなければ、岩屋に追い込んで、真っ暗の中で全部捕まえる。要するにカウボーイ的な発想です。」

河合隼雄編『心理療法対話』岩波書店、2008年、181頁。生物学者・長谷川眞理子氏との対談)