しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

カラスを下から呼んではならないという反省

 去年の冬休み(年末年始)は至福のときだった。

 ひたすら修論を書いた。研究室は(ほぼ)わたしひとりだった。ほとんど何にも邪魔されなかった。疲れると、午後にはコーヒーをいれてひとりで飲んだ。キャンパスもひとかげまばらだった。ひとりであることがあれほどしあわせだった時期は、これ以前も以後もない。

 

 キャンパスがからっぽで困っていたやつもいた。カラスである。学生がいる時期、ゴミ箱にあれこれの食料が詰め込まれている。しかし休みの時期になると、カラスには食べ物がなくなる。真冬のキャンパスを歩いていると、木の幹をがりがりつついたり、ゴミ箱の下をのぞきこんでいるカラスをよく見かけた。

 商店街のほうにゆけば食べ物(人間の出したゴミなど)が見つかるのではないかとおもうけれど、縄張りなどいろいろな事情があるのだろう。

 

 わたしが生息しているキャンパスは広い。カラスが何羽生息しているのかわからないけれど、大学会館の裏手に2,3羽、言語文化研究科の喫煙ボックスのそばに1羽、待兼山付近につがいが1組、工学部の周辺に2羽ほど住んでいるようにおもう。ただしわたしは専門家でないので、個体識別はまったくできない。したがって重複がありうる。

 

 からっぽのキャンパスでカラス同士でごわぁごわぁと鳴いていたので、じぶんも試しに地上から鳴き声を真似して呼んでみた。

 呼ばれたカラスは、いっしゅんビクッとした。かれ(かのじょ?)は樹の枝にとまっていたのだけれど、なぜこの声が「下から」聞こえてくるのか、奇妙であるなという表情におもえた。それからわたしから視線をそらして、あからさまに無視するように見せかけて、少し離れた枝に移り、こちらをわずかにうかがった。以上はわたしの勝手な擬人化である。

 

 カラス同士が会話するとき、真上と真下という空間的位置関係を取ることは少ないような気がする。同じ高さですぐそばにいるか、高低差がある場合も、10メートル以上離れている。真下から呼びかけるというのは、ややシツレイにあたったのかもしれない。

 

 ちなみに、カラスの鳴き声を真似するばあい、顎の上側あたりで発声するのがよさそうである。「かぁかぁ」というよりは「んごわぁ、んごわぁ」というかんじか。遠慮していると伝わらないので、相手に声が届くように思い切って鳴くのが良い。