しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

ザワークラウトを漬ける

3月31日の深夜にザワークラウトを作っている。

先週の土曜日に春キャベツ半個分を漬け込んだ。うまく発酵が始まったので瓶ごと実家に持っていった。先々週、母からイカナゴの佃煮を送ってもらったのでその返礼だった。神戸ではこの季節になるとイカナゴの佃煮の郵便が行き交う。北摂出身のパートナーに春先の風物詩だと説明すると驚いていた。ザワークラウトを漬けた瓶は一人暮らしを始めたとき母が砂糖を詰めてくれたものだ。先月、その砂糖を使い切った。10年かかってカラになった瓶はキャベツが詰め込まれて実家に戻った。

だからザワークラウトも瓶も手元になくなった。スーパーで瓶と春キャベツを買ってきた。そして3月31日の深夜にザワークラウトを作っている。

 

数度の成功と失敗を繰り返してザワークラウト作りのコツはわかってきた。キャベツを細かく切る。重量の2%分の塩を振って揉み込む。すると間もなくキャベツの細片が輝き始める。塩分により葉内部の水が浸出したのだが、独特のやわらかなつやつやが自然と現れるのが好きだ。

コツの一つは、ここからしつこく圧することである。ラップをかけて、その上から手で押す。水分がさらに滲み出す。そうして1時間ほど押して滲みてを断続的に繰り返してから瓶に詰める。詰めるときもまた圧する。そうすると、あの大きかったキャベツが瓶におおむね収まってしまう。なお元の容器に溜まった水分も瓶に戻す。

 

瓶の蓋を少しゆるめて一晩置くと、翌朝には漬け汁が瓶から溢れている。発酵のガスのためである。瓶のなかを見ると大小の泡がキャベツの葉の間に溜まっている。自分の意識や文明の時間とは異なる機序が静かに進行していたのだ。その発見にふしぎな愉悦を感じる。

瓶を拭いて、またスプーンなどで圧する。泡がぶくぶく上がってくる。このとき水位が葉をひたひたにすることが大切である。水位が低く、葉が空気に触れていると失敗することが多い。

 

3日も経てば春キャベツ特有の甘味と発酵による淡い酸味がまじりあい、早くも食膳の要衝を占めるに至る。だがこの時点ではまだ塩味が強い。発酵はまだ途上である。塩分自体は変わっていないはずなのに、発酵が進むに連れて塩味が退いてゆく。

 

そういうことを3月31日の深夜にやっているところです。

久しぶりに母と父と犬の顔を見て安心していたのに気づいた。