しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

最高瞬間視聴率

「最高瞬間視聴率」というものは、不思議な数字だとおもう。とくに放映の展開が予測できないスポーツの生中継の場合、もっとも劇的なシーンに視聴率が最も高くなるというのは、不思議なことだ。

 

放映の展開が予測される番組の場合は、ここでは除外する。たとえば『ラピュタ』の視聴率が一番高くなるのは、最終盤の「バルス」のシーンだろう。バルスが出てくるのが放映終盤の時間であることはたいていのひとは知っているので、そのときに合わせて多くのひとがテレビを見る、そのために視聴率が上がるという因果関係は理解しやすい。

 

しかしスポーツ中継の場合、そのように事前に予測できない。

たとえばサッカーの日本代表戦で、有名選手が見事な逆転シュートを決めたとする。その瞬間が最高視聴率になったとする。

そのシュートがその瞬間に入ることは事前には誰も予測できない。そのシュートを中継で見ることができる(=視聴率に入る)視聴者は、それ以前から中継を見ていたひとである。偶然そのときチャンネルを実況中継に合わせたらたまたまシュートが決まったという幸運なひとも一定数いるはずだが、大多数ではない。

 

ところが最大瞬間視聴率がそのシュートの瞬間だったと発表されると、あたかも、ひとびとが事前にシュートが決まる時間帯を知っていて、そのときにテレビを見始めたと理解されてしまう。

実際には、シュートが決まったことで、多くのひとがそこで中継を見なくなることで視聴率の頂点がつくられている、ということのはずだ。だから最高視聴率の瞬間とは、視聴率が上がり切った瞬間ではなく、視聴率がそこから下がり始める瞬間なのではないか。