小此木啓吾「フロイト対フェレンツィの流れ」『精神分析研究』44(1), 28-36, 2000.
・禁欲規則、分析の隠れ身、中立性、受け身性、医師としての分別を基本とするフロイト的態度。他方、人間的な愛情と温かい交流こそ治療の根本であるとするフェレンツィ的態度。2つの対照的な態度は、精神分析の2つの治療観の流れを作り出した。
・フロイトはフェレンツィを批判したが、1970年代以降の精神分析の潮流はおおむねフェレンツィ的態度に寄っている。母子関係の研究を進展させたバリント、スピッツ、アレキサンダー、マーラーらはハンガリアンで、フェレンツィの流れを組む。とはいえこの時代の視点からフロイトを読み直せば、かれの中にも豊かな人間関係の理解が再発見されるはず。
・我が国におけるフェレンツィの受容。東京の土居健郎・小此木啓吾は公にはフロイト的治療態度の確立を目指した。一方、西園昌久をはじめとする九州の流れはよりフェレンツィに親和的。ウィーンのフロイト対ハンガリーのフェレンツィという構図に重なるところがある。
・フェレンツィ的態度はあくまでフロイト的治療態度を身に着けてはじめて実践できるものである。
(雑な感想:著者が「公の立場」としてフロイト的治療態度の確立に専心せねばならなかったと何度も強調しているのがおもしろい。肩にいろいろ載せながら日々の臨床をしなくちゃいけない時代。)