しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片を毎日1000字くらいで書く。

猫の事務所

電車の隣の座席で、女性が少年にずっと小言を言っていた。親子らしかった。仮に母子としておく。

ずっとずっと母親が何かをこまごまこまごま言っていた。男の子は、数分に一回、「わかってる」とか「受け止めるよ」とか不機嫌そうに言い返すのだけれど、子供が一言言い返すと、それを全て塗り潰さなければならないかのように母親はさらに繰り言を続けた。

子供に何かを説明して納得させることが目的なのではなく、じぶんの心のスペースを子供の鼓膜の裏まで押し拡げるのが目的なのかもしれない、とおもった。


こういうとき、宮沢賢治の『猫の事務所』を思い出す。事務所で働く竈猫が、ほかの書記の猫にいじめられている。物語の最後に突然「獅子」が出てきて「やめてしまへ。えい。解散を命じる」と宣告する。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/464_19941.html

「えい。解散を命じる。」と言えたらいいなと思ってしまう。この場合は事務室ではなく家族なのだけれど。もう家族解散!親子解散!みたいな。そんな権限はわたしにはないし、わたしは獅子ではないし、あの男の子も別にそれを望んではいないだろう。でも、それしかないじゃないかとおもってしまう。解散。