しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

本があることの至福(『語るボルヘス』)

「私は今でも目が見えるようなふりをして、本を買い込み、家じゅうを本で埋め尽くしています。先だっても、1966年版のブロックハウスの百科事典を贈り物にいただきました。家の中にその百科事典のあることがはっきりと感じとれ、私は一種の至福感にひたっていました。20数巻の書物がそこにあるのですが、今の私にはそのゴシック文字は読めません。地図や図版も見ることはできないのです。それでも、書物は間違いなくそこにあり、私は書物が放つ親しみの込もった重力のようなものを感じていました。人が幸せだと感じる可能性はいろいろありますが、書物というのはそのひとつだと私は考えています」(ボルヘス木村榮一訳)『語るボルヘス 書物・不死性・時間ほか』岩波文庫、2017年、27頁)