しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

FF7シナリオ再考: ジェノバの存在がどうしても浮く

  以下は妄想です。

 

 結論を先に書いておくと、FF7のシナリオは(1)「〈古代種/ライフストリーム/エアリス〉対〈魔晄/環境破壊/神羅〉の戦い」を基盤とした設定・シナリオ原案と、(2)「神羅カンパニーのエースだったセフィロスが自分の出自を求めてジェノバに行き着き神羅から離反し、セフィロスを師と仰いでいたクラウドが彼を追う」というシナリオ原案の2つがやや独立してそれぞれ存在し、それらが製品版では統合されて「古代種 VS  セフィロスジェノバ VS 神羅」という複層構造の物語となってしまったのではないか。2つの「原シナリオ」は、物語終盤のメテオ対ホーリーという構図によってきわめて丁寧に統合されたが、ジェノバの存在がどうしても浮いてしまっている。

 

1. FF7のわかりにくさ: ザックスの存在

 「FF7」を初めてプレイしたとき、いまひとつストーリーがしっくり飲み込めなかった。その理由のひとつが、ザックスの存在にある。とくに初代FF7(PS版)では、クラウドの過去と正体に関するキー・パーソンでありながら、基本的にクラウドの回想シーンでしか登場せず、いつのまにか現れていつのまにか消えるという、よくわからない人物になっている。そのため後発の続編ではクラウドとザックスの過去が改めて描かれ直すことになったが、これは初代の時点でザックスの存在がシナリオの中にうまく組み込みきれていなかったことの裏返しでもある。

 ザックスのシナリオ上での「落ち着きの悪さ」については、彼がFF7の製作中のシナリオ改変によって登場せざるをえなくなった「ご都合キャラ」ゆえなのではないか、という考察がある。…のだけど、どのサイトだったか再発見できない。とても説得力のある考察だった。

 ザックスがわかりやすい例になるが、FF7のストーリーはいろいろなところで凸凹している(それがあの大作の魅力でもあるのだけど)。おそらく、複数の製作スタッフがいろいろとアイデアを出してシナリオを練り上げている最中に、さまざまなストーリー原案が混じり合い、統合され、最終的な製品版の物語として成立したのだろう。そうした練り上げ作業のなかでどうしても無理がでてきてしまった一例がザックスなのかもしれない。

 さて以下の文章では、FF7の中でもうひとつの「無理が出てしまった存在」としてジェノバのことを考えてみたい。FF7のシナリオをいまいちど辿り直してみるとき、どうしても浮いてしまうのが彼女(?)なのだ。

 

 ただし考察するといっても、「物語の謎を、作中のヒントや設定資料集の情報から解いてゆく」というタイプの考察ではない。あくまで、物語がどのように成立したかという点を考えたい。したがって基本的に初代PS版FF7のみを対象として、そのシナリオの破綻しかけている部分を「解体」してゆくつもりだ。その後に出た「クライシスコア」等のシリーズは、基本的にPS版のシナリオで破綻しかけている部分を修復するように物語を作っているから、これらを追いかけてもあまり意味が無い。

 他方、製作スタッフのインタビューや「裏話」的なものを引き合いに出すこともしない。本当はそれらを読むのがもっとも正確なのだろう。しかしやってみたいのは、PS版FF7のストーリーのみを再考しながら、その成り立ちを仮想的に再構成する作業である。

 

2. ライフストリームと神羅カンパニー: 基礎的な世界観

  FF7の基礎的な世界観をかたちづくっているのは、ライフストリームと、それを収奪する環境破壊企業・神羅カンパニーの存在である。この世界の地球ではライフストリームという一種の生命エネルギーがめぐっており、これは太古の魔法的知性の媒体でもある。要するにライフストリームをうまく使うと魔法が行使できる。「古代種」と呼ばれるひとびとはこのライフストリームの保護者のような立場だった。しかし現在生き残っている古代種はエアリスひとりのみである。一方、世界企業である神羅カンパニーはこのライフストリームを「魔晄」と名付けて吸い上げ、独自のエネルギー源として都市の工業化を推し進め、軍事力で世界を支配していた。神羅が魔晄(ライフストリーム)を際限なく一方的に吸い上げ消費することで、その土地の生命力は減退し、環境破壊が進行してゆく。

 この設定では、「ライフストリーム/古代種/エアリス」と、「魔晄/現代工業社会/神羅カンパニー」という二項対立が設定され、この対立構造に「魔法vsバイク」「エコロジーvs環境破壊」という属性が重ね書きされている。中核的ゲームシステムである「マテリア」も、この設定のなかにうまく組み込まれている。この基本設定はシンプルで説得力があり、製品版でそのまま用いられている。

 問題は、この設定からストーリーをどのように立ち上げればよいか、ということだ。まず古代種の最後の生き残りとして、エアリスというヒロインが設定される。次に、「反神羅を掲げる武装組織」としてバレットのアバランチが登場し、アバランチに傭兵として参加するのが主人公クラウド君である。これらの最小要素のみでストーリーを作るとどうなるか。「アバランチにたまたま雇われた元神羅カンパニー所属ソルジャーであるクラウドが、反神羅カンパニーの武装闘争に従事するなかで古代種のエアリスと出会い、彼女を神羅から救い出して、バレットとともに神羅をやっつけ、ライフストリームを守る」という筋書きが一応成立する。これを原エアリス・シナリオと呼ぶことにする。

 製作チームの中で実際にこのような原シナリオが存在していたかはわからない。はっきりとしたかたちでは成立していなかったかもしれない。したがって、この原シナリオはあくまで理念上、仮想上の存在である。ここで言いたいことは、「ライフストリームvs神羅」というシンプルで強力な基礎設定から無理なく物語を生み出すとすれば上記のようなシナリオになるだろうということ(つまり原エアリス・シナリオは基礎設定から全く乖離しないということ)である。

 ところが問題が生じる。この原エアリス・シナリオはたいして面白くないのだ。『天空の城ラピュタ』の劣化コピーでしかない。基本的にエアリスとクラウド神羅の魔の手から「逃げる」物語となるため、RPGとしても相性が悪い。そこで、ストーリーを改めて組み立てるために、「ライフストリームvs神羅」の基礎設定の上に別の物語要素を上積みする必要があった。そこで登場したのが「セフィロスジェノバ」というもう一つの原シナリオである。

 

3. セフィロスジェノバ: ダイナミックなドラマ

 セフィロス神羅カンパニー最強のソルジャーである。ソルジャーとは魔晄エネルギーを注入(?)されることによって超人化した兵士であるが、セフィロスの強さは群を抜いていた。実はセフィロスは、古代に地球に襲来し神羅が発掘した異生物「ジェノバ」の細胞を埋め込まれた戦士だったのだ。製品版の物語では、セフィロスは自身の正体を知って神羅から離反し、母親であるジェノバとの融合を果たす。かれは星の全てのエネルギーを奪い、神に等しい存在となるために、黒マテリアを用いてメテオを発動する。しかしエアリスが白マテリアによって発動したホーリーと、ライフストリームの励起、そしてクラウド達の死闘により、セフィロスジェノバは倒され、メテオは防がれ、神羅カンパニーも壊滅する。めでたしめでたし。

 

 以上はFF7の中盤以降の物語である。セフィロスジェノバクラウドの関係が立ち上がってくるのだが、古代種の存在や神羅カンパニーによる環境破壊という文脈が一気に弱まることに注目したい。さて、ここからはほとんど根拠の無い「勘」レベルの話なのだけれど、セフィロスの設定において当初立ち上がったシナリオは、「神羅最強のソルジャーであったセフィロスが、実は自分がジェノバ細胞から創り出された異形の生物であることを知り、神羅から離れて暴走し始める。主人公であるクラウドセフィロスを師として兄として慕っていたが、異形の存在となったセフィロスをライバルとして追うことになり、最終的にかれを倒す」というものではなかったか。これを仮にセフィロス・シナリオと呼ぶことにする。この、もうひとつの原シナリオが、原エアリス・シナリオに組み込まれたというのがわたしの基本的な想定である。

 なぜセフィロス側の物語を上記のように想定できるかというと、「ジェノバ細胞を埋め込まれた異形の戦士」というセフィロスのキャラクター設定から自然と成立し、なおかつ「暴走した師を主人公が討つ」という物語が古典的でシンプルなものとなるからだ(例:Gガンダム東方不敗とドモン)。

 この原セフィロス・シナリオの利点は、世界のあちこちへ移動するターゲット(セフィロス)を追って、主人公クラウドが旅を前進させてゆくという、RPGに適した物語論理を持っていることだ。「追跡」の物語は描きやすいし、プレイヤーも感情移入しやすい。

 欠点は、このシナリオではクラウド神羅カンパニー内部の人間で有り続けざるをえないということ。もちろん物語のどこかでクラウド神羅から離反するという流れを作ることは容易だけれど、このシナリオでは基本的に「セフィロスジェノバ vs 神羅カンパニー」という対立構図が用いられているため、セフィロスと対峙するクラウドは基本的に神羅側で行動するという論理にならざるをえない。

 

4. ふたつの原シナリオの対比: ザックスとティファの位置づけ

 以上、2つの原シナリオの存在を仮定した。繰り返し言うが、こうした原シナリオが実際に製作過程で成立していたかどうかは確かではない。極論、存在しなくても別にかまわない。このように2つの異なる原シナリオを想定することで、どうにもスムーズでない製品版のストーリーがかなり見通し良く理解される、ということである。

 それぞれの原シナリオにクラウドが登場するが、事実上は別のキャラである。原エアリス・シナリオのクラウドは、いわばラピュタのパズーである。ボーイ・ミーツ・ガールを通じて巨大悪徳企業を潰し、エコな世界を守ることが彼の役割となる。かれをクラウドAと仮に名付けておく。

 他方、原セフィロス・シナリオで主人公となる「クラウドB」は、セフィロスとの対峙において立ち上がってくるキャラクターとなる。セフィロスに憧れ、かれの背を追うが、自分自身は特異な存在ではない。それを自覚したうえで、異形の暴走存在となったセフィロスを倒すことを決意する。仲間の協力のもとクライマックスでラスボスとなった師と対決する…。ここで、クラウドBはザックスとほぼ等価であることが理解される。2つの原シナリオを統合する際、エアリスを救うパズー型クラウドAと、セフィロスと対決するクラウドBが合体することになった。このときクラウドAに半ば押し出されるかたちで抽出されたクラウドBの「影」が、ザックスであると言える。

 2つの原シナリオを想定すると、ティファの存在もわりあいすんなりと位置づけることができる。ティファは完全に原セフィロス・シナリオ側のキャラだ。理由は単純で、原エアリス・シナリオにティファが存在する余地は一ミリも無い。実際、最終的な製品版の物語でも、ティファはバレットよりもセフィロスにずっと強く絡んでいる。ニブルヘイム出身で、乱心したセフィロスに故郷と両親を奪われている。おそらく原セフィロス・シナリオでは、その復讐のためにクラウドの仲間になり、セフィロスと戦うのだろう。クラウドと幼馴染という設定もうまく合う。ところが製品版ではニブルヘイムを追われたティファはミッドガルに落ち延び、バレット率いるアバランチの一員となっている。しかしティファがミッドガルに移動し、アバランチに入る必然性はほとんど無い。製品版の物語ではバレットとティファは最初から同志であるけれども、両者は実は全く出自が別なのだ。

 バレットは徹底的に原エアリス・シナリオ側のキャラである。原セフィロス・シナリオでは、アバランチはほとんど活躍の余地が無い。セフィロスたちに蹴散らされるほかない。これに対し、バレットとアバランチが生き生きとしてくるのは、原エアリス・シナリオ側の物語においてである。初代PS版FF7の物語最序盤、魔晄炉の爆破からエアリスとレッド13をつれてのミッドガル脱出までは、おおよそ原エアリス・シナリオの影響を色濃く残していると推定できる。ついでに言えば、レッド13=ナナキも原エアリス・シナリオと親和性が高い。作中ではライフストリームに強く絡み、セフィロスジェノバの展開ではほとんど仕事が無い。

 ティファの位置づけに話を戻すと、彼女がニブルヘイムを離れてアバランチに加入することになるのは、2つの原シナリオの統合によって生じたご都合的な移動という側面が強い。おそらく、原エアリス・シナリオでジェシーが果たしていた役割を、ティファが部分的に奪っているのだろう。列車内でジェシークラウドの顔を拭くシーンは、もしかしたら、原エアリス・シナリオでもうちょっと活躍していた(かもしれない)「原ジェシー」の名残なのかもしれない。

 以上のように説明すると、アジトに戻ると巨乳の幼馴染がなぜか待っていて、外で活動すると謎の花売りの美少女に出会うという、最序盤クラウド君の妙なエロゲ原作アニメっぽい立ち居振る舞いもある程度理解される。元来、ミッドガルでクラウド(A)が出会うべきなのはエアリスだけなのだ。ミッドガルではティファはどうしても浮いてしまう。

 

5. ジェノバの立ち位置: ふたつの原シナリオの統合

 原エアリス・シナリオと原セフィロス・シナリオのどちらが先に作られたのだろうか。たぶん実際の製作作業としては、巨大世界支配企業神羅カンパニーの設定を中心として、一方でそれと対立するライフストリーム/古代種/エアリスの物語が生まれ、もう一方で、神羅内部で反乱を起こすセフィロスクラウドBの物語が生まれたのだろう。おそらくこれらは同時進行であり、「どちらが先」という問い自体無理がある。しかし、物語構成の論理としてどちらがより基層的であるかを強いて考えてみると、原エアリス・シナリオのほうが「古い」。

 その理由は単純である。セフィロス・シナリオは原エアリス・シナリオを必要としないのだ。セフィロスジェノバとそれを追うクラウドBという物語は、それだけで十分魅力的だ。前述のようにクラウドBが神羅カンパニーから距離を取れないという難点はあるが、古代種やマテリアやライフストリームといった背景が無くても十分成立する。他方、原エアリス・シナリオは基本的な世界観設定にすぎず、そこから動的な物語が生まれづらい。つまり、まず原エアリス設定(ライフストリーム、古代種、魔晄炉による環境破壊)が固められたあと、それだけでは物語が生まれないので、原セフィロス・シナリオが要請された。強いて理由付けをすればこのようになる。

 このようにして、原エアリス・シナリオの世界観の上に、原セフィロス・シナリオの物語が構築されることとなった。この統合はかなりうまくいっている。とりわけ、セフィロスがライフストリームから得た知識で黒マテリアを発動し、それに対してエアリスがホーリーで対抗するという終盤の展開は、両シナリオがもっともうまくジョイントしている部分だ。

 しかし全てがうまく噛み合っているわけではない。ところどころ、2つの原シナリオの調停が行われている。物語中盤でセフィロス(実際にはジェノバ)がエアリスを殺害する有名なシーンは、実質的に原セフィロス・シナリオが原エアリス・シナリオを排除して物語を「乗っ取った」ことの表明でもある。有り体にいうと、DISC1は原エアリス・シナリオで、DISC2は原セフィロス・シナリオなのである。DISC3で両者は再度統合されるが、それでも全体的な流れはおおむね原セフィロス・シナリオの方に寄せられてゆく。セフィロスとエアリスはFF7という物語の主導権争いをしており、結局セフィロスがそれに勝つのである。*1

 また、廃人化したクラウド君が温泉療養(?)を経てアイデンティティを回復する流れは、実際は原エアリス・シナリオのクラウドAから、原セフィロス・シナリオのクラウドBへの移行である。ティファが甲斐甲斐しく介護をしているのも、原セフィロス・シナリオ側のキャラである彼女がメイン・ヒロインの位置をエアリスから奪うということである。

 同時期、プレイヤーキャラが人事不省のクラウドからシドに一時的に変更される。このとき、バレットが「リーダーは俺だ!」と言いかけつつ、「最近気づいたけど、実はそうでもないかもしれない」と謙虚な(?)姿勢を見せてリーダー役をシドに譲る。ここもかなりはっきりと原エアリス・シナリオのアバランチの物語から原セフィロス・シナリオへの移行をプレイヤーに示している箇所だろう。実際のところ、ミッドガルを出た時点でバレットの役割は終わっているのだ。ゴールドソーサー周辺で旧友との対決があるが、これは「テコ入れ」のための挿話という感が強い。(この理屈でいくと、逆にシドは原セフィロス・シナリオ側の人間ということになる。たしかに飛空艇ハイウィンドは逃避行よりもセフィロス追跡の方により噛み合う。だがどうも自分の印象では、シドは2つの原シナリオのどちらかに寄せなければいけないというキャラではないような気がする。もしかしたら、3つめの「原シド・シナリオ」を担当していたのかもしれないが、よくわからない)

 

 さてところが、これら以外の部分を確認してゆくといろいろと齟齬が見つかってくる(というか、この齟齬を説明するために、2つの別々の原シナリオが統合されたという仮定を持ち出している)。その最大のものがジェノバの存在だ。

 おそらく原セフィロス・シナリオではジェノバはそこまで重要な役割を与えられていなかったのだろう。原セフィロス・シナリオの主人公はあくまでセフィロスクラウドBだ。むしろジェノバをはっきりと描かないほうがもともとの不気味さがうまく演出される。しばしば指摘されるように、おそらくクロノ・トリガーラヴォスや、エヴァンゲリオンの「光の巨人」などの設定がおおまかな下敷きとなっていたのだろう。

 ところが、原セフィロス・シナリオを原エアリス・シナリオに組み込むとき、ジェノバがどうしてもうまくはまってゆかない。つまり古代種の存在とかち合ってしまう。現在の基本設定では、「ジェノバが数千年前に地球に来着したあと、古代種はこれを封印しようとしたが、ジェノバは逆にウイルスを感染させて古代種をほぼ滅ぼした」ということになっている。これはかなり苦しい前日譚のように思える。「エアリスというヒロインがいて、彼女はかつてライフストリームを見守っていた古代種の生き残り」という原エアリス・シナリオの設定における古代種の存在と、「数千年前に地球に偶然襲来した異生物」という原セフィロス・シナリオのジェノバの設定がかちあってしまう。原エアリス・シナリオの古代種の設定はジェノバの物語を必要としないし、ジェノバの物語も古代種の設定を必要としない。この両者は合わせて設定されたものではなく、それぞれ別々に考案され、途中で強引に遭遇させられたものだと推測したほうがよい。もし最初から両者を同時に矛盾なく設定していたなら、たとえば「ジェノバは古代種の一員だったが、何らかの意図のために古代種から枝分かれし、かれらと敵対して独自の行動を取るようになった異型の存在」などと設定するほうが楽である(ロマサガ2の七英雄がこれにあたる)。

 ところが出自の異なる2つの古代の存在が衝突したため、「封印しようとした」「ウイルスで全滅させた」という、かなり強引な解決が設定上で図られることとなった。もっとも無理があるのが、「自由に他者の存在をイミテーションできる」というジェノバの設定である。これはもう、シナリオの矛盾を回避するために無理やり導入された最強のご都合便利能力であると言わざるをえない。(これに対して、神羅カンパニーがジェノバを発掘したとき古代種だと誤解して…という物語はかなり上手いとおもう。)

 古代種とジェノバは、神羅カンパニーとの関係においても物語を屈折させてしまう。原エアリス・シナリオにおいて、古代種は神羅に迫害される対象である(生き残りはほとんどいないのだけれど)。古代種=エアリスは、神羅にとって「逃げてゆく姫」の役割である。一方、神羅ジェノバも発掘し、これを活用してセフィロスを作るが裏切られる。利用できると思っていたジェノバに逆に利用されることになる。ここでジェノバは「悪女」の立ち回りを引き受けている。2つの原シナリオからそれぞれ別タイプの対立項が生まれており、それらが統合されて物語が複層化している。いわばプレジデント神羅は二股をかけていることになろうか。大河ドラマとしては深みが出て来るのだけれど、けっきょく神羅はエアリスとジェノバの、どちらに何を求めていたのかが曖昧になってゆく。

 ちなみに、この二股によって苦労させられるのがタークスの面々である。タークスは基本的に原エアリス・シナリオ側のキャラクターだけれど、原セフィロス・シナリオにもある程度の親和性があるのではという印象がある。DISC1ではタークスはもっぱらエアリスを追っているが、中盤の原セフィロス・シナリオ側の物語でもクラウドたちと絡んでゆく。もしかしたら、原セフィロス・シナリオでも、セフィロスを追って神羅から離れてゆくクラウドを誅殺するためにタークスが送り込まれる、といった役回りがありえたのかもしれない。統合され混乱する神羅の内部で、対エアリス、対ジェノバの両方の尻拭いをさせられるのがタークスである。「古代種の神殿」で、ツォンさんが「クソっ…エアリスを手放したのが運の尽きだった…」とつぶやくのも、このあたりの妄想を前提とするとなかなか味わい深い。両方の原シナリオに噛み合いうるという点が、かれらのキャラの魅力を引き立てているのかもしれない。

 

6. クラウド君の懊悩

 話をジェノバに戻そう。ジェノバFF7で最も重要なキャラクターであり、きわめて目立つにもかかわらず、「ライフストリームと魔晄」の世界観の中にいまひとつ噛み合ってこない。セフィロスと共に物語をグイグイ引っ張るのだけれど、引っ張ったうえで何をしたいのか、という点が見えてこないわけである。星の生命力を吸い上げたいのであれば古代に来襲した時点でそうすればよかった。古代種をウイルスでほぼ全滅させたが彼らに封印されたという前日譚は、物語を構築するためのかなり無理な設定であるように思える。「子供」であるセフィロスにしても、けっきょく何のためにメテオを発動するのかが実はあまりはっきりしない。星の全てのエネルギーを手に入れて神に等しい存在になるということらしいけれど、発想が妙に小物である。

 要するに、ジェノバセフィロスは、原エアリス・シナリオに出会ったあと、彼らに対して何をすればよいのかいまひとつ掴みきれなかったのではないか。かれらがとりあえずやったことは、物語上の「正妻」の位置を、古代種とエアリスから奪取することである(その余録としてティファはクラウドをゲットする。彼女は物語の構造上はジェノバの「影」なのだ)。二股をかけていた神羅に対して、自分たち母子こそが愛されるべき対象であることを明確にさせるのである。しかしその後が続かない。妄想を重ねれば、終盤のメテオは原セフィロス・シナリオにはもともと存在しなかったのではないか。原セフィロス・シナリオではセフィロスジェノバとまだ再会しておらず、かれが北極で眠るジェノバを探し出し、合体しにゆくのがストーリーの大きな流れであり、かれがジェノバと本当に合体する前になんとかかれを倒すのがクラウドの目的で…という流れなら、わりとしっくり来る。

 このあたりの混乱は、物語最終盤、北極に篭もるセフィロスとメテオに対する神羅カンパニーとクラウド達の行動のふらつきとしても現れる。神羅26号の打ち上げ、キャノン砲のミッドガル設置と射撃、ウェポンの襲来など、派手なイベントが立て続けに起きる。個人的に大好きな展開なのだけれど、クラウド達は打倒セフィロスのために神羅と共闘するわけでもなく、ウェポンもなぜかセフィロスではなくミッドガルに現れてルーファウスを殺してしまうし。お互いに誰が敵なのか混乱したまま潰し合っている。最終的にミッドガルと神羅はメテオとウェポンとクラウド達の急襲が重なって壊滅する(ラストの「500年後…」はなんとも印象的だったなぁ…)。そしてクラウドセフィロスとの最終決戦に至るが、神羅カンパニーがライフストリームを魔晄炉で収奪して環境破壊をしていたという話はほとんど消滅してしまっている。原セフィロス・シナリオに沿ってゆくと、神羅と魔晄炉は温存されてしまうのだ。

 古代種の神殿と黒マテリアの扱いも、微妙なズレを起こしている。古代種の神殿最深部の、メテオを描いた壁画は非常に不気味だ。あの神殿とメテオは、古代種の持つ暗黒の部分であり、不気味さである。古代種の神殿に帰ってゆくエアリスがすこし不気味に感じるのも良い演出だ。だがその最深部でセフィロスジェノバが現れ、黒マテリアをクラウド君から受け取ってしまう。これによって、古代種が持っていた不気味さが、途中からセフィロスジェノバに奪われてしまう。ジェノバもまた不気味な雰囲気を常に漂わせているのだが、ひとつの物語のなかに、2つの異なる不気味さはどうしても共存しえない。

 (追記)『天空の城ラピュタ』と比較すると、このあたりの混乱がよく理解できる。古代種のメテオは、「ラピュタの雷」と同じものだ。本家『ラピュタ』では、この古代の畏怖すべき科学力を、当のラピュタ王家の末裔であるムスカが再起動しようとし、もう一方の末裔であるシータがこれを否定する、というところに物語の論理があった。他方FF7では、エアリスがシータの役割を演じるけれど、ムスカにあたる人物がいない。古代種と全く無関係なセフィロスが後からやってきて、黒マテリアを奪うという筋になってしまった。『ラピュタ』にたとえると、ゴリアテで乗り込んだ無能なデブ将軍か、あるいはドーラ一家がラピュタの雷を手にしてドンパチ始めるようなものだ。

 

 このように2つの原シナリオの統合過程でさまざまな凸凹が生まれている。改めて強調しておきたいのだけれど、それこそがFF7の魅力の中核であるとわたしは心から信じている。「物語が破綻しかけている」と表現したけれど、それはけっして作品の価値を低く評価しているのではない。2つの原シナリオが戦うことで、物語に良い意味での緊張感と複雑さを生み出している。ただ、どうしてもジェノバ(とザックス)の位置づけだけは固めきれなかったのかなぁ、とも思うわけで。

 この過程のいちばんの被害者は案外クラウド君かもしれない。中盤、精神世界のクラウド君が頭を抱えて懊悩することになる。それは彼自身の弱さのツケを払っているのではない。悪いのは古代種の使っていたベッドを無理やり奪おうとするジェノバセフィロス母子であり、二股をかけていた神羅カンパニーであり、ダイナミックな物語に参与できない古代種たちである。かれらの引き起こした混乱によって物語の基本構造にいったん断層が生まれ、物語が始まる。ところがその断層の力がクラウド君に集中してしまった、ということになろうか。クラウドから物語を作るのではなく、神羅カンパニーの側から物語を作り始めたところに、作品としての成功とクラウドの悲劇があったのかもしれない。

 

(追記: 書き終わってからもうひとつ思い出したのが、エアリスとザックスが恋人関係にあったという設定がいちおう生きているらしいということ。これは原シナリオ同士のかなり性急な「すりあわせ」の一例なのかもしれない。原エアリス・シナリオ側のヒロインであるエアリスと、原セフィロス・シナリオ側の主人公であるクラウドB=ザックスを結びつけるのだから。このあたりに設定の複雑さよりも微妙な強引さを感じるのも、2つの原シナリオを仮定する理由である。ここらへんを本当に統合したければ、たとえばエアリスとザックスの子供を改めて主人公にして、かれがジェノバの子供であるセフィロスと対峙するといった筋書きになるのかもしれない。)

 

世界宗教史(8冊セット) (ちくま学芸文庫 エ)

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*1:たしかミルチア・エリアーデが「隠れたる神」という概念を神話構造の分析で使っていた。世界の神話には天地創造の神が必ず登場するが、かれらはその後の神話ではだんだんと引っ込んでしまい、後の世代の神々に表舞台を譲る。ここではエアリスが「隠れたる神」の役割を引き受けている、というのは言いすぎだろうか。