ツイッターで、「桃太郎」の絵本を逆から読むと面白かった、という話があった。
他の昔話・童話ではどうなるか、試してみた。
1. 逆再生・浦島太郎
ある見知らぬ村におじいさんが迷い込んでいた。おじいさんの身体にまとわりついていた煙が箱に吸い込まれてゆき、蓋を閉めるとおじいさんは若返っていた。
海岸に亀が待っていて、かれの背に乗って海底にゆく。乙姫様のお出迎えを受け、箱を渡してあげるとこれは玉手箱というものですと教えられる。鯛やヒラメの舞い踊りがあり、乙姫様ともイチャコラする。
しばらく楽しんだので、また海亀の背に乗って浜辺へ戻る。子どもたちが集まってきて海亀をいじめ始めたが、そのまま見捨てて浦島太郎は村へ帰ったのでした。めでたしめでたし。
2. 逆再生・七匹の子ヤギ
井戸の底で死んでいた狼が蘇生し、地上へ這い上がってくる。お腹がたいへん重たいので、近くにあった家に侵入し、ベッドで眠る。お母さんヤギが現れ、狼のお腹を裂いて彼の胃の中にあった石を取り除き、かわりに自分の子どもたちを詰め込み、縫い合わせる。
狼は順に子ヤギを吐き出し、ベッドの下や戸棚の中に隠してあげる。狼は去り、お母さんヤギが帰宅する。めでたしめでたし。
3. 逆再生・金の斧銀の斧
嘘つき木こりが、手ぶらで魔法の池に行く。池の女神が現れる。木こりが嘘をつくと、女神は手ぶらの木こりに鉄の斧を渡す。
正直者の木こりが、自分の金の斧、銀の斧を持って池にゆく。池の女神が現れる。木こりが正直に女神の問いに答えると、金の斧と銀の斧を没収される。女神が沈んだあと、思い出したように鉄の斧を水面下から投げてよこす。正直者の木こりは鉄の斧を持って帰宅しましたとさ。めでたしめでたし。
4. 逆再生・竹取物語
天皇が富士山で薬を焚く。その狼煙を合図に、月からの軍団がかぐや姫を護送して地上に舞い降り、かぐや姫はおじいさんおばあさんの家にホームステイを始める。あちこちの秘境で宝探しをしていた三人の独身貴族がかぐや姫のもとに集結し、求婚する。
かぐや姫はおじいさんおばあさんの家ですくすくと小さくなり、赤ん坊になってしまう。おじいさんは赤子を山へ連れてゆき、ちょうどよいサイズの竹が割れていたので赤子をその中に収め、竹を元通りにするとその節が光り始める。そのまま放置して野山で竹を取りよろずのことに使いける生活に戻った。めでたしめでたし。
5. 逆再生・北風と太陽
とても暑い日に全裸で歩いていた旅人が服を着始めると天候が急変し風が強くなった。
6. 逆再生・笠地蔵
ある雪の夜、おじいさんとおばあさんの家にお地蔵さんの一団が現れ、老夫婦が所有する財宝を奪って去ってゆく。おじいさんが追いかけてゆくとお地蔵さんたちは何事も無かったかのように雪の中に並んで立っている。せめて笠だけでも、とおじいさんは思い、強奪地蔵たちが頭にかぶっていた笠を剥ぎ取り、一柱のお地蔵さんからは頭巾を剥ぎ取って自分でかぶる。笠を市にもってゆくが全く売れず、帰宅しておばあさんと二人で笠を解体して憂さ晴らしをする。めでたしめでたし。
まとめ
・狼は死から蘇りいろいろな生命を口から吐き出す傾向がある。インドの創世神話のような趣がある。
・赤ちゃん発見で始まる物語は、ネグレクト物語に変化する。
・時系列を逆にして再生すると、善人/善行が悪人/悪行に、悪人/悪行が善人/善行に反転するケースがある。
・「赤ずきん」のように、複数のアクターが同時に動くケースは逆再生の難易度が高い。
・「ヘンゼルとグレーテル」では、燃え盛る火の中から魔女のおばあさんを救出し、その後ヘンゼルが自分で檻に入るという、よくわからない筋になる。なお帰り道は鳥たちがパンくずを吐き出してくれることで道筋が判明する。「道に迷う」タイプのシーンは逆再生がうまく効かない傾向がありそう。そもそも元の物語において、「迷う」シーンが語りの時系列をリセットする働きを持っているからではないか。
・笠地蔵がいちばん酷い。