堤防に腕を突っ込んで死んだオランダの悪ガキの話

 道徳と倫理の違いは何か、ということを考えたりする。

 

 小学校のときの「道徳」の教科書に、「水が噴き出していた堤防の穴に腕を突っ込んで町が水没するのを防いだが自分は死んでしまったオランダの悪ガキ」の話があって、なぜかその物語だけよく覚えている。

 

 たしかこういう筋だった。

 オランダのある町に素行の悪い少年がいた。ある夕、帰宅途中に、堤防に穴が開いていて、水が漏れ出していた。着ていた上着を穴に詰めたが水は止まらない。大人を呼ぶべきかと考えたが、このまま放置していたら町が水没してしまうかもしれない。少年が自分の腕を穴に突っ込むと、水漏れを止めることができた。水が冷たい。しかし逃げ出すわけにはいかない。翌朝、冷たくなった少年を町のひとびとが見つけた。かれが命を捨てて堤防の決壊を防いだのだスゴイ。みたいな。

 

 読んだ当時から、よくわからない話だった。

 そんな都合の良い形で「穴」が開くんだろうか。子どもの腕で止められるくらいの太さの穴なら、噴き出る水の量もそんなにたいしたことないんじゃないだろうか。けれど水圧ってあるんじゃないか。蛇口の水を手で止めるのも難しいのに、腕をつっこんだくらいで止まるだろうか。

 

 といったことをつっこむのは道徳の時間にやるべきことではなくて、要するに共同体のために殉死するのはエライのです、というお話だった。まあそういうタイプの善もたまにはあるかもしれないけど、オランダの堤防、そんな都合の良い形で穴が開くんだろうか。

 

 「堤防 腕 オランダ 少年」などで検索してみた。この話自体は創作だそうだ。しかしネットで出てきた物語の梗概は、自分が覚えているものと微妙に違う点がある。道徳教科書に収録するときに翻案したのか、自分の記憶違いか。翻案だったとしたら、それも興味深い。