しずかなアンテナ

哲学の瓦礫片のための場所。

読んだもの

災禍の定義と「支援」(アンヌ・ブッシィ「フクシマの災害と災禍に対する社会の反応」(2015))

災禍の経験を通して、また、半世紀以上の多岐にわたる研究により、「災禍」は時代とともに様々な定義を与えられるようになった。(…)定義にこだわりすぎるのは無意味で無責任なことに思えるかもしれないが、フクシマの被害者のように、常に支援が必要な被災…

小此木啓吾「フロイト対フェレンツィの流れ」(2000)

小此木啓吾「フロイト対フェレンツィの流れ」『精神分析研究』44(1), 28-36, 2000. ・禁欲規則、分析の隠れ身、中立性、受け身性、医師としての分別を基本とするフロイト的態度。他方、人間的な愛情と温かい交流こそ治療の根本であるとするフェレンツィ的態…

「ポスト震災○○年」が不可視化するもの(稲津秀樹「被災地はどこへ消えたのか? 「ポスト震災20年における震災映画の想像力」2017年)

稲津秀樹「被災地はどこへ消えたのか? 「ポスト震災20年における震災映画の想像力」『新社会学研究』2, 2017, 46-56. つまり、「ポスト震災○○年」という言葉でもって震災の時空間が方向付けられる限り、私たちの想像力に1995年1月17日に現出した被災地のリ…

回復と下山(中井久夫『徴候・記憶・外傷』みすず書房、2004年)

急性期から回復していくのを、私は山から下りるのにたとえたことがあります。回復は山から下りるときの感じですね。私もちょっと山登りをしていたことがありますけれども、回復の一つの特徴は目標がはっきりしないことです。発病のときに目標があるかという…

山澤学「自然災害の記録と社会 『信州浅間山焼記』を事例に」(2016)

山澤学「自然災害の記録と社会 『信州浅間山焼記』を事例に」、伊藤純郎・山澤学編著『破壊と再生の歴史・人類学 自然・災害・戦争の記憶から学ぶ』筑波大学出版会、2016年、27-47頁。 (内容のごく大まかなまとめ) 『信州浅間山焼記』は、天明3年(1783年…

展開が無いことの恐ろしさ: 『ペリリュー 楽園のゲルニカ』6巻

武田一義、平塚柾緒(太平洋戦争研究会) 『ペリリュー 楽園のゲルニカ』6巻(ヤングアニマルコミックス、2019年1月)を読んだ。感想を書く。 本作は、太平洋戦争末期のペリリュー島の様相を、主に日本陸軍の兵士たちの視線から描いた物語である。同島の日本軍…

藤本和子『塩を食う女たち 聞書・北米の黒人女性』

結婚して四年たって、子どもが生まれた。女の子。それから三年して、男の子が。夫は子どもはほしくない、といったけど。そして三度目の妊娠。これは夫もあたしも計画していなかったもの。夫はひどく動揺して中絶しろといった。あたしはその子を産まない理由…

エスノグラフィ研究の落とし穴 (イアン・パーカー(八ツ塚一郎訳)『ラディカル質的心理学』2008年)

この1ヶ月、博論を提出し終えてから、質的研究の方法論に関する本を読み始めている。順序が逆だろうと思われるかもしれないけれど、そういうものらしい。調査を始める前にも何冊か読んだのだけれど、うまく頭に入らなかった。不思議なもので、研究にいったん…

「闘わない社会学」……中村英代『摂食障害の語り 〈回復〉の臨床社会学』新曜社、2011年。

「先行研究を批判し、ほかの専門家と闘い、自己の議論の優位性を主張する。こうした知的ゲームには、学問を押し進めていく力がある。あえてそうしたゲームに乗ることは、研究という営みの作法でもあるから、それ自体を否定しようという気は全くない。けれど…

樋口直美『私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活』

著者はレビー小体型認知症という珍しい認知機能の症状を持っており、30代後半から幻視や自律神経失調に苦しめられていた。本書は著者が50歳ごろの、症状が悪化しレビー小体型認知症ではないかと自身で気づき始めた時期の日記をまとめなおしたもの。 ひと…

「場所が選ばれていく」

――撮影する場所はどうやって決めるのですか。 最初はホームレスのダンボール小屋がヒントだったんで、ホームレスが小屋を作ってるような場所で撮影してたんですよ。橋の上だとか公園とかね。そうすると、おまわりさんに注意されたりするんですよね(笑)。「…

「いつからわれわれはこうなってしまったのか」

しばらく砲火を交えた後、意外にも日本軍陣地に白旗が挙った。米兵は重機を前進させておいてから、武器を捨てろと呶鳴った。二、三の小銃、剣、飯盒が投げ出された。しかしその次に弾が来て、五人の米兵が傷ついた。前進した重機が射撃を開始し、十三人の日…

「生活保護は家がある人のものだから帰れ」

私が初めて野宿する人の生活保護の申請に同行して福祉事務所に行ったときのことを少しご紹介しましょう。その方Aさんも初めから生活保護を希望していたわけではありませんでした。60歳になり年金を受給できるようになるが、住所がないので困っていると相談し…

声と傷: 朴璐美様のリテイク

『∀ガンダム』のロラン役、『鋼の錬金術師』のエド役で有名な声優・朴璐美さんのロング・インタビューが非常に面白かったので紹介したい。 いろいろなことが語られているが、いちばん心に残ったのが『鋼の錬金術師』の有名な「君みたいな勘の良いガキは嫌い…

アメリカで中絶が違法・道徳的悪となった経緯

州によるが、現代アメリカでは人工妊娠中絶に強い制約が課されている。Pro-choice(女性による選択に賛成=中絶の権利に賛成)派と、Pro-life(胎児の生命を守ることに賛成=中絶に反対)派の論争はアメリカ社会を二分するものだというイメージがある。中絶…

籠池夫妻と差し入れの書籍でコミュニケーションを試みるという記事を読んだ

大阪拘置所に接見禁止のまま長期間拘留されている籠池夫妻に対し、差し入れの書籍で間接的にコミュニケーション?をはかっているノンフィクション作家さんの記事。面白い。 大阪拘置所は、夫妻に対する面会や、手紙や写真のやりとりを禁じている。そのため支…

風に否定される哲学者

私は地にたずねてみました。すると地は、「それは私ではない」といいました。地にあるすべてのものが、同じことをうちあけました。海と淵とその中をうごめいている生物にたずねてみました。するとそれらは答えて、「私たちはあなたの神ではない。私たちの上…

北九州市の成人式についての行政広報のインタビューが面白い

「北九州市は修羅の国」ってうわさ、ぶっちゃけどこまで本当ですか? 市の担当者に直接聞いてみた (2/2) - ねとらぼより。 ―― 北九州市といえば、ド派手な衣装の新成人が登場する成人式も有名。あれを修羅の国のイメージと関連付ける声もありますが。 本人た…

「その後の消息は不明」

群馬県高崎に生まれ、石川啄木の詩や本を愛した。亡き父の借金返済、母と妹の生活を支えるため、19歳で吉原へ。「騒いで酒のお酌でもしていればよい」という斡旋屋の嘘にだまされ、遊郭の花魁(娼婦)になる。「復讐の第一歩として、人知れず日記を書こう」…

減速する触覚(デイヴィッド・J・リンデン『触れることの科学』)

人は誰でも成人の期間を通じて、ゆっくりと接触の喪失を経験する。というのは、20歳から80歳にかけて、メルケル盤とマイスナー小体の密度が3分の1に減っていくからだ。接触位置に対する皮膚の鋭敏さも同程度に低下する。加齢による鋭敏さの低下は、皮膚の浅…

能とサバイバー(『多田富雄コレクション4 死者との対話』より)

私たち観客は、僧といっしょにこうした「あのひとたち」に出会い、彼らの喜び、嘆き、さらにもっと奥深い情念や、解決できない悩みに参加する。(…) 私たちがわざわざ能楽堂に会いに行く「あのひとたち」とは、どんなひとたちだろうか。 それはおおざっぱに…

本があることの至福(『語るボルヘス』)

「私は今でも目が見えるようなふりをして、本を買い込み、家じゅうを本で埋め尽くしています。先だっても、1966年版のブロックハウスの百科事典を贈り物にいただきました。家の中にその百科事典のあることがはっきりと感じとれ、私は一種の至福感にひた…

被害者をだまらせる技法 ―伊藤詩織『ブラックボックス』感想

伊藤詩織『ブラックボックス』(文藝春秋、2017年)を買って読んだ。ジャーナリストとしての就職を望んでいた著者が、TBSワシントン支局長の山口敬之氏から性的暴行を受け、同氏が不起訴処分となったことから検察審査会に申し立てを行った。その申し立ての報…

妊婦さんのお腹は勝手に触ってよいというアレ

「私は、機会があれば、妊婦さんのおなかに触らせてもらう。 ゆっくりとてのひらを広げ、奥にいる生命を感じさせてもらう。元気で生まれてきてね。外で待っているからね。世界はそんなに悪いところじゃないよ。怖いことだってあるけど、いい人たちもたくさん…

囚人の首を絞める医学者

21世紀に入って、英国の精神医学界はこの領域における20世紀の誤りを今世紀に繰り返さないために、精神医学者のワースト・テンを選んだ(2001年3月の新聞報道)。その1位は、脳の血流が止まった場合の精神状態を調べるために刑務所の囚人の首を絞めた学者、…

ガラスのからだを持つひとびと

「誇大妄想をもち、たとえば自分が王様であると信じている人は今日でも見られる。自分の体がガラス製であると思い込んでいる人はもはや見られない。しかし初期近代には、〔ガラスや陶器で自分の体ができていると思っている〕ガラス人間や陶器人間は比較的一…

子羊の掴まえ方(河合隼雄編『心理療法対話』より)

「 長谷川 西洋との違いということでは、私自身、面白い経験があります。以前、ヒツジの研究をスコットランドの沖合の無人島でやっていたのですが、そこでは、子ヒツジの成長を見るために一週間おきに捕まえて体重を測るんです。その捕まえるのがなかなか難…