囚人の首を絞める医学者

21世紀に入って、英国の精神医学界はこの領域における20世紀の誤りを今世紀に繰り返さないために、精神医学者のワースト・テンを選んだ(2001年3月の新聞報道)。その1位は、脳の血流が止まった場合の精神状態を調べるために刑務所の囚人の首を絞めた学者、…

なんであれ時代の変化を感じたがる

2週間前、ロンドン橋の根元のバラ・マーケットで無差別テロがあって、7人の民間人が殺されて3人の犯人が警察に射殺された、というニュースを見て、なんとなく聞いたことのある地名だなと思い起こしてみると、4年前に研修でロンドンに行ったときわたしは旅程…

性暴力と政治:「同情できない」の心理について

はっきりと同定できる敵による残虐行為、あるいは自分自身の行為としての残虐行為について、男性が遅延性の記憶を呈している限りにおいては、何ら論争は起こらない。しかし、同じような記憶の問題が、家庭内での虐待というコンテクストで女性や女の子が遅延…

「超音波法案」についてのケンタッキー州知事のコメント

米ケンタッキー州で「中絶手術を受ける前に胎児の超音波画像と心音を妊婦に聞かせることを義務付ける法案」が今年1月に成立した。現在、反対する団体が裁判所に仮差し止めを申し立て、それが認められている。 この法案について、ケンタッキー州知事のMatt Be…

ガラスのからだを持つひとびと

「誇大妄想をもち、たとえば自分が王様であると信じている人は今日でも見られる。自分の体がガラス製であると思い込んでいる人はもはや見られない。しかし初期近代には、〔ガラスや陶器で自分の体ができていると思っている〕ガラス人間や陶器人間は比較的一…

成年男性における〈うんこ教育〉の必要性

以前、学校で臆せずうんこに行くことを小学生男児に教えることの重要性を述べた。 【提言】小学校低学年における〈うんこ教育〉の必要性 - しずかなアンテナ きのう、このようなニュースがあった。 mainichi.jp すばらしい調査だ。みんなうんこ漏らしていた…

pixiv事件とフィールド系研究者の「やらかし」について

立命館大の「pixiv論文」事件、議論がわぁっと盛り上がっていて、すこし驚く。よくある話やな、という感覚で自分は見ていた。 この手の失敗・失態を、じぶんの周囲の業界?では、「やらかす」と表現する(日本全国で通じる表現なのか、関西弁なのかわからな…

インテリ誌の巻頭対談はなんであんなに喋れるのか

『現代思想』とか『理想』みたいな、トップレベルの研究者が競って投稿したり、寄稿依頼が来るとすごく嬉しくなるような文系カッコイイ系雑誌があって、そういう雑誌ではたいてい特集に関連した対談録が、雑誌巻頭(あるいは2つめくらい)に掲載されている…

アメリカ退役軍人省の「PTSD脳組織バンク」プロジェクト

なんとなくググっていたら、えげつないプロジェクトのサイトを見つけたので紹介する。 www.research.va.gov 大雑把にまとめると、PTSDを抱える退役軍人から脳組織を死後検体してもらい、将来の研究のために収集保管するプロジェクト。 以下、抄訳。 「退役軍…

子羊の掴まえ方(河合隼雄編『心理療法対話』より)

「 長谷川 西洋との違いということでは、私自身、面白い経験があります。以前、ヒツジの研究をスコットランドの沖合の無人島でやっていたのですが、そこでは、子ヒツジの成長を見るために一週間おきに捕まえて体重を測るんです。その捕まえるのがなかなか難…

研究室リソースの使い方

倫理学専修or臨床哲学研究室の学部生・院生のみなさまへ(とくに卒論・修論を書かなくちゃいけない方たちへ)。 この文章では、研究に必要なさまざまな「資源」の使い方を説明します。資源とは、書籍やプリンタやカメラなどの備品、図書館の論文取り寄せシス…

stomachacheは「胃痛」ではない(?)

以下は、最近3ヶ月在米していたパートナーから教えてもらった話。外国語学部出身で、英語のよくできる人である。 あるとき胃の不快感に悩まされ、薬局で「stomacacheに効く薬をくれ」と頼んだ。欲しかったのは日本でいう「胃薬」である。しかし出されるのは…

【提言】小学校低学年における〈うんこ教育〉の必要性

なぜ、小学生は、とくに男児は、小学校のトイレで「うんこ」をすることをあれほどまで忌避するのだろうか。あれはなんだったのだ。 小学生のとき、校内でうんこをするというのは、きわめて勇気のいることだった。誰にも見つかってはならなかった。わたし自身…

ケンタッキー州「中絶を受ける妊婦に胎児の超音波画像を見せる法案」の続報

yomu.hateblo.jp 米国ケンタッキー州で、中絶手術を受ける妊婦に、胎児の超音波画像を見せ、心音を聴かせることを強制する法案が提出されたというニュースが今年のはじめにあった。 上記エントリではこの法案があまりにグロテスクだと批判をこころみたが、そ…

声が詰まる。

なぜひとは、うまく話せないことがあるのだろう。あらゆる人類が、機械音声のように、ただ情報伝達としてのコードを口から発音するだけなら、どれだけ「楽」だろうとおもう。 おもわず喉もとが硬く締め付けられて、ことばがうまく出ない。相手の相槌を待つこ…

イラク帰還米兵のはなしを聞きに行った。

豊中国際交流協会の小さなイベントに行った。 アッシュさんという名前のお兄さんが、戦地での自分の体験を話した。 アッシュさんは「イラク帰還米兵」である。高校卒業後に州兵に入隊し、計6年間、従軍した。かれはクウェートとイラクにいた。 アッシュさん…

出っ張ったところと凹んでるところ(おちんちん考)

おちんちんは出っ張っている。おまんこは凹んでいる。おちんちんというものがここまで出っ張っていなければ(哺乳類がペニスという器官を持たなければ、ということになるのだが)、人間の生き方やものの考え方というものはさまざまに変化しただろうとおもう…

東神戸病院内の「震災遺構」

狂犬病の予防接種のために東神戸病院(神戸市東灘区)に行ったら、なつかしいものを見つけた。 あまりうまく写真を撮れていないけれど、これは新規外来者が問診用紙に記入する机です。 んで、そこに置かれてた鉛筆。 これ、1995年の震災のとき、インドから救援…

震災追悼のこころみを神戸新聞に掲載してもらった

www.kobe-np.co.jp 去年の4月ころからこつこつ準備をしていた取り組みです。17日を前に、今日の朝刊で紹介していただきました。 記事内容はとても的確で、じぶんの舌足らずな説明を、紙面ではすっきりと過不足なくまとめてくださっていると感じました。ほん…

窓枠

実家で寝転んで窓から空を見ている。大阪や京都に比べると、神戸はわりと空が近い印象がある。雲の「きめ」がはっきりと見える。寒波の気流に引き込まれてゆく雲の動きに連動して、たまに部屋がふっと暗くなって、また明るくなる。東へ東へ移動してゆく。窓…

「小さなもの」がパブリッシュされたよ

雑誌『臨床哲学』18号が公刊されました。 http://www.let.osaka-u.ac.jp/clph/syuppan2_vol18.html 去年の早春から取り組んでいた「小さなもの」も載っています。 じぶんがこれまで書いたもののなかでいちばん大切なもの。とても嬉しい。 読んでもらえるとさ…

「中絶前の妊婦に胎児の画像と心音を」法案について

www.cnn.co.jp このニュースを教えてくれた方が「グロテスクの一言」と言ってくれた。わたしも同じ感想を持った。 この法律のグロテスクさ、ヤバさを多少分解してみたい。 1.心音を聴くのは妊婦だけ? 上記のニュース記事では妊婦が胎児の心音を聴く・画像…

地球型ではないけれど、アレであるもの

宇宙人はいるか、地球外生命体は存在するか。ということを探るとき、「水」の有無が大きな問題になる。太陽系のある衛星には実は水や氷が豊かに存在するとか、もっと遠い惑星からのスペクトルを調べると水の存在が確かめられるとか、天文学者はそういう探索…

ニンジャスレイヤーの記事をWEBRONZAに掲載してもらったよ

webronza.asahi.com 新年からいきなりニンジャが出てきて殺す論説だよ! Wasshoi!! 記事は上下構成になっていて、明日「下」が掲載される予定です。 今日の「上」ではツイッターでみんなで小説をライブ感覚で読むっていうのは新しいスタイルだよね(ヘッズ…

2才児の会話は脈絡が無いがテンポがある

年始ということで実家に帰ると、妹家族がいた。甥(2才半)と母親(わたしの妹)は何かずっと会話をしている。しかしその会話を聞いていると、ひとつずつのやりとりは何か意味があるけれど、全体としてはきわめて脈絡が無いことに気づく。1分のうちに3回…

2016年に書いたもの

2016年に書いたもの、学会で発表したことをまとめておくことにする。 (厳密には「2015年度」に含まれるものや、2016年内にpublishされなかったものも含まれるけれど) その1 リフトンの修士論文 「R. J. リフトンのサバイバー研究における「変容」思想につ…

個人的2016年流行語大賞「もらえる」

「もらえる」という表現が多く使われるようになった。この一年でとても増えたのではないかと思う。世相を反映しているような気がする。 ここでいう「もらえる」は、企業が消費者へ景品を配るときの広告表現である。 以前はこういう場合、「もらえる」ではな…

手を見る、手を触る

忘年会で、なんとなくすることもなくて、同席者の手を見ていた。 ある程度知っているひとの手を見ると、なんとなく納得するものがある。ああ、たしかにこのひとはこういう手のひとだなぁと感じる。大きな、わしっとした手。肉付きの良いまるっとした手。細く…

マイクロフィルムを使った/記録密度と信頼感は反比例する

マイクロフィルムを初めて触った。 神戸の中央図書館で使った。神戸新聞の記事を調べる必要があった。1995年から1997年までの記事で、ネットでは検索できない。マイクロフィルムで保管されている。 フィルムのリールを映写機に取り付けて、手元のツマミでフ…

便箋に時間を吸わせる。

手紙を書いたあと、その便箋をすぐに封筒に入れて封をせず、しばらく机のうえに置いたままにしておくことがある。便箋が部屋の時間を「吸っている」ようなきぶんになる。すぐに投函しても、2日ほど間を置いてから投函しても、便箋に書いた内容には変化は無い…

白ランスロットとメル・ギブソン

高校生のころから、『タクティクスオウガ』の白ランスロットがなんで男なのにスカーフみたいなのを頭に巻いてるのかわからなかった。 (上記画像はPSP版『運命の輪』。自分がプレイしたのはPS版無印) さいきんアマゾンで『ブレイブハート』を観たら、メル・…

2才児「こえわー?」ラッシュ

2才の甥が「はたらくくるま」の本をひらく。警察、消防、工事用車両などなどがページごとに載っている。載っている車をひとつずつ指差して、「こえわー?」と聞く。「これは、『コンクリートミキサー車』」と妹(2才児の母)が答えてゆく。 全ての車につい…

「間」を獲得する甥(2歳)

10日ぶりに甥とその母(わたしの妹)と会うと、以前と違って会話に「間」ができていて、びっくりした。 具体的には、甥が妹に何か言ったあと、彼女の返答をうまく待つようになっていた。そのため、両者とも声を出していない時間が生まれている。客観的には0.2…

Ciniiは研究者を幸福にしたか

CiniiとAmazonが無い時代、院生や研究者はどうやって研究をしていたのだろう、と思う。 Ciniiは日本語論文の総合検索サイト。日本国内では、ほかにJ-STAGEや医中誌WEBやメディカルオンラインといった論文関連のサイトがある。海外にもまたいろいろある。分野…

丁々発止母子

実家に帰ると、妹と甥がいた。甥は2歳を過ぎて、「いや!」をよく言うようになっていた。お風呂に入る、いや!!おしめ換える、いや!!母親(妹)とかれの様子を見ていたが、この「いや」に対する即座の応答のキレが、すごい。祖母も「いや」に対応するのだけ…

樹木に「いま」はあるか

キャンパスの落葉樹の枝があらかた裸になって、尖った枝先を見るともう小さな芽が付いている。このまま春までじっと待機していて、そのときが来たら一斉に芽吹く。堅く詰められた火薬みたいだなと思う。その姿勢のまま春の発芽のときを今か今かと待っている…

身と身体

身体の現象学、という哲学のテーマがある。 「真理」や「存在」や「永遠」といった抽象的な概念について考えるのが哲学だと思われがちだけれど、もっと身近で、しかも身近であることがわかっていない出来事、つまりこの「身体」がわたしたちにとってどう現れ…

初代ウルトラマン第三話感想

初代『ウルトラマン』を見ていた。第三話「科特隊出撃せよ」で、電気を吸うネロンガという怪獣が出てきて発電所に現れるのだが、自分のエネルギー源のはずの電気を生産してくれている発電所を破壊していた。ネロンガは水力発電所を壊したあと別の火力発電所…

「覚え」と「記憶」

「そういえば以前ここに来たときは、バスがなかなか来なくて寒かった覚えがあるなぁ」などと言うことがある。 この場合の「覚え」は「記憶」と言い換えることもできる。 では、「覚え」と「記憶」は同じ現象だろうか。「覚え」は何かを覚えていること、その…

ゼットン戦とゼルエル戦

たまたまYoutubeで初代ウルトラマンのゼットン戦の動画を観ると、『エヴァンゲリオン』のゼルエル戦となんかそっくりやなぁ、と思った。 www.youtube.com ゼットンはウルトラマン最強の敵とされる。作中でウルトラマンはゼットンの高い攻防能力に翻弄され、…

鏡を見なければできないこと

鏡を見ながらハサミを鼻の穴に入れて鼻毛を切ろうとすると、奇妙な難しさがあった。ということを先日書いた。 そのなかで、鏡を見なければできない作業が意外と無い、ということを書いた。 ここで書いた「作業」とは、日常の作業のなかで、とくに手を使って…

鏡を見て鼻毛を切りづらい

鼻毛が伸び出しているので、鏡を見ながらハサミの先を鼻の穴に差し入れて鼻毛を切ろうとすると、すごくむずかしい。 ハサミを右手に持って、左手に持った紙を切る。これは難しくない。 ハサミを右手に持って、左手の手の甲の産毛を切る。これも、刃が肌にひ…

大学校舎の災害避難訓練がけっこう無意味っぽかった(らしい)

きのう研究室にゆくと、いまちょうど避難訓練が終わったところ、と教えられた。 文学研究科が入っている校舎(法学研究科、経済学研究科も同居)の避難訓練だったらしい。 避難訓練の手順を聞くと、かなり無意味な…というのは言い過ぎかもしれないけれど、さ…

なぜソシエはターンエーのラストでロランにキスをしたのか

アマゾンのプライムビデオで『ターンエーガンダム』が公開されていた。もう何度目かわからないけれど、劇場版(地球光/月光蝶)を通して見た。 好きなシーンがたくさんある映画だけれど、物語の最後もそのひとつだ。戦争が終わり、ひとびとはまた平和な生活…

逆再生昔話

ツイッターで、「桃太郎」の絵本を逆から読むと面白かった、という話があった。 他の昔話・童話ではどうなるか、試してみた。 1. 逆再生・浦島太郎 ある見知らぬ村におじいさんが迷い込んでいた。おじいさんの身体にまとわりついていた煙が箱に吸い込まれて…

スチール本棚を買った

いまのワンルームに引っ越して一年余、本棚無しで研究生活を送ってきた。 現在、書籍は段ボール箱などに入れて保管している。数えてみたら、引っ越し時に詰めた段ボール箱7つ、ニトリで購入した整理用の段ボール箱が大サイズ中サイズ2つずつ、計11個箱に…

土人考

「土人」が尊称・敬称になる日が来るであろうか。土人を蔑称として使うなら、その人自らは空の人、天の人であろうか。空の人は死ねば土に埋もれぬのであろうか。あるいは霊魂はパケットや電磁波となって土に決して触れぬままであろうか。 土人を土から引き剥…

「うつは『心の風邪』ではなく『脳の肝硬変』」を読んで考えたこと

うつ病は「心の風邪」とよく喩えられるけれど、むしろ「脳の肝硬変」と考えたほうが良い、というtogetterまとめを読んだ。なるほどな、と思った。 togetter.com まとめの中で指摘されていることだが、「心の風邪」という表現はもともと、「誰でもうつ病にな…

大きな蜘蛛は大きいのか

下宿の部屋に大きなクモが現れた。驚いた。 小さなクモはわりと好きだ。指先に載るようなクモが部屋の壁をそろそろと歩いているのを見ると、なぜということもなく嬉しくなる。 けれども、さっき現れたクモは、子どもの手のひらくらい大きかったので、ちょっ…

幸福な宇宙人を想像するライプニッツ

ライプニッツ『弁神論』から。少し長いですが、美しい文章だったので引用します。 古代の人々にとっては、人が住めるのはわれらの地球だけであった。それでもなお彼らは対蹠地に恐れを抱いていた。それ以外の世界は彼らにとっては光り輝く球体であったり水晶…